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もうじやのたわむれ 120 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「ああそうですか」
 と云う事はそのロストウさんは、娑婆を二十年程前に引き払われたのでありましょう。
「エリートで将来の大経済学者として、大いに期待されておると云う事じゃ」
「そう云う霊に邪馬台郡の将来の見取り図なんかを描いて貰えば、発展間違いなしではないでしょうかね。話題性もありそうだし」
「いやいや、そうもいかんわいな。ロストウとか云う若い衆は合衆群地方の保守系政治家とのつきあいが濃くてな、合衆群地方の政治戦略や外交路線策定に深く関与しておるらしい。その合衆群地方は地獄省の中でもトップクラスの先進工業地方であり、地獄省のリーダーを自称しとるわけじゃから、邪馬台郡なんぞは歯牙にもかからん小地域と云う認識じゃろうて。だから殆ど興味も示さんじゃろう。それにその若い衆はなかなかの強硬派で通っておって、自説の証明のためには、地域紛争なんかも肯定する云った物騒で冷酷な一面もあると云う噂じゃから、あんまり邪馬台郡には似つかわしくないようにワシは思うぞい」
「ああ、そうですか」
 そう云えば娑婆でもロストウさんは、ベトナム戦争推進派だったのでありましたか。
「まあ、新郡長の渋沢さんが、これからの邪馬台郡発展の秘策を色々考えておるじゃろうから、先ずはそちらのお手並み拝見としておいた方が、安穏じゃろうて」
「まあそうですよね。目覚ましい経済発展とか急激な霊口流入が、邪馬台郡に暮らす霊の幸せであるとは限りませんからね。それに万事ゆっくりじっくりの方が、余計な問題が発生しにくいでしょうしね。邪馬台郡が邪馬台地方に昇格しなくとも、住霊が金持ちにならなくとも、なんとか生活が立ち行くのであれば、その方が呑気と云うものですものね」
「そう云う事じゃわい」
 閻魔大王官はそう云って、巻物を掌の中で躍らせながらワハハと笑うのでありました。
「ところで今までの話しとは全く関係ないのですが、そのお手にされている巻物はいった何なのでしょうか、さっきから気になっていたのですが?」
「おう、これかい」
 閻魔大王官はそう云って自分が手にしている巻物を見るのでありました。「これは閻魔大王官としてのワシの小道具で、こういうのを持っておった方が、なんとなくそれっぽく見えるじゃろうから、こうして何時も握っておけと上に云われておるのじゃよ。単なる装飾品じゃな。別に何か、大事な事がこの中に書いてあると云うわけでは全然ないぞい。ほれ」
 閻魔大王官はそう云いながら、拙生に向かって巻物をゆっくり広げて見せるのでありました。成程巻物の中は殆ど白い儘で、隅の方の所々に小さな文字で、葱一束、とか、醤油瓶小、とか、日本酒、とか、商店街の正月お楽しみ籤を景品のティッシュ二箱と交換、なんと云うメモのような文句が、縦横斜めに不揃いに書きなぐってあるのでありました。
「その、大根とか醤油とか日本酒とか、お楽しみ籤とか云うのは何なのでしょうか?」
「ああ、これは家の婆さんが時々電話してきて、役所の帰りにこう云うものを買ってきてくれとか用を頼まれるのを、うっかり忘れて後で叱られんように書き留めておいたワシのメモじゃよ。手近にメモ用紙がない折に、これにちょこちょこと書いておいたものじゃな」
(続)
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