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もうじやのたわむれ 116 [もうじやのたわむれ 4 創作]

 拙生は納得するように頷くのでありました。
「そう云った体制であるから、軍備拡張も思いの儘であるし、新しい武器の開発にも大金が投入されるし、組織する軍隊もなかなか強いわな。過去にあった戦争で地獄省が太刀打ち出来なかったのは、これは宜なるかなと云うものじゃて」
 閻魔大王官は顎の白髭を扱くのでありました。どうやらそれが癖のようであります。
「ああ、第二次省界大戦ですね、それは?」
「おおそうじゃ。審問室で聞いたかいの?」
「ええ、審問官さんと記録官さんに聞きました。しかし確かその時は、敗戦省たる地獄省の諸制度は、戦後に極楽省の進駐軍によって民主化されたのだと聞いたように思うのですが、絶対主義王政を執る極楽省が、地獄省を民主化する事なんか出来るのですかね?」
「自分の処の統治制度をそっくりこちらに移植するのではなくて、寧ろそれとは対極の、知識として娑婆から仕入れていた民主主義と云う統治技術を、向こうの御用政治学者やら有能な行政官なんかを使って、地獄省に強制移植したのじゃよ。省霊自身に依る省霊の自由と幸福のための政治が、新しい地獄省には理想的な政治形態であると大いに宣伝これ努めてな。しかしじゃな、それは恐らく地獄省内の愛省心と軍事力を、将来に渡って弱体化するためにと云う、極楽省の連中の卑劣な狙いがあったのじゃとワシは思うておるがの」
「しかし民主主義体制であっても、愛国心も軍事面も結構強力な国家なんちゅうものが、娑婆にはあったように思いますが」
「そうじゃな。それはこちらでも実証されておると云えるじゃろうかな。我が地獄省は民主主義省家であっても、いやそれだからこそ、今や極楽省に劣らない強盛な省家となった、なんと我々は自負しておる。ま、厄介な問題は幾つか抱えておるにしろ」
 閻魔大王官はそう云って顎髭を扱きながら、力強く一回頷いて見せるのでありました。その後、その所作で顎髭が何本か抜けたのか、扱いた方の掌を凝視した後、それを横に持っていってもう片方の掌ではたいて、抜けた髭を下に払う仕草をするのでありました。
「地獄省では省霊に身分のようなものはなくて、総ての省霊の基本的人権、いや違った、基本的霊権、それに思想信条の自由やら言論の自由、結社の自由、職業選択の自由、旅行や移動の自由、仕事帰りに一杯やる自由、上司の後ろ姿にあかんべーをする自由、面倒臭いから毎日顔を洗わないでも後ろめたくない自由、カカアに口答えが出来る自由、往来で急に大きなくしゃみをする自由、嫌いなおかずは残しても文句を云われない自由、晩酌の燗酒を二本まで飲める自由、休日にカカアの買い物につきあわないでも良い自由、道ですれ違った若い女の子の胸に竟目を向けてもカカアに叱られない自由、背広のポケットに入れておいた小銭がカカアに取り上げられずに済んだのを秘かに喜ぶ自由、ふらっと散歩に出ようとした時買い物をカカアに頼まれない自由、春風亭柳昇師匠の寄席の自由、それからそれから、・・・ま、その他諸々の省霊の自由なんぞが、ちゃんと保証されているのですね?」
「そう云う事じゃな。しかしお手前の今の念押しには、ちまっとしたカカア関連が如何にも多いのう。ワシとしても判らん事もないが。まあ、前半の旅行や移動の自由までは憲法で保障されておるが、それ以降の自由は、残念ながら憲法上の保証の限りではないのう」
(続)
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