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もうじやのたわむれ 107 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「当然である。第一、二重目までの居住地区の霊以外は、そんな省外旅行なんと云う贅沢が出来る程の収入なぞはない」
「省外旅行が出来る程の収入がない?」
「いや、だからと云って多くの省霊が貧乏だと早合点してはいかんぞ。省霊は贅沢をしなければ、充分満ち足りた生活が自分の居住地区の中で送れるのだよ。まあ、省外旅行となると航空運賃は高いわ、最近は燃油サーチャージなんという頭にくる追加料金まで取られるわで、極めて贅沢な道楽となっとるのだよ。それに先ず以って、極楽省の総ての省霊は極楽省の事が大好きであるし、極楽生活に満足しておるから、態々地獄省なんぞに旅行したいと云う気が起こらんのでな。誰が好き好んで、地獄くんだりに行くものか」
 お地蔵さんがそう云って鼻を鳴らして顰め面をして見せるのは、拙生の質問が少々疎ましくなったからでありましょう。
「極楽省の総ての省霊が極楽省の事が大好きとか、極楽生活に満足しているとか、地獄省に行きたいと云う気が起こらないとか、どうして判るのです?」
 拙生は構わず質問を続けるのでありました。
「そんな事は当然であるからだ」
「当然であると云われますけど、実際に匿名での意識調査とか、電話での聞き取りサンプル調査なんかで確かめた事はないのですか?」
「そんな無粋な事はせん」
「だったら、どうして当然だと云えるのです?」
「それはもう、考えるまでもない自明の事だからだ」
 お地蔵さんは苛立たしそうに云うのでありました。
「つまり当然と断言出来る明白な根拠は何もないと云う事ですな。そうしてみると、私としては俄かには、あなたの云う事を鵜呑みに出来ないじゃないじゃないですか」
「お前さんだって娑婆にいる時に、態々地獄に行きたいと思った事等ないであろうに?」
「そりゃそうです。他のヤツに対しては地獄に堕ちろと思ったりした事がありましたが、自分が地獄に行きたいとは確かに思いもしませんでした」
「そうだろうな。だから自明の事と云っとるのだ」
「しかしそれはこちらの世の地獄やら極楽やらの実相を知らなかったからで、その事と実際のこちらの世の極楽省に住む省霊が、地獄へ行きたくないと思っているかどうかは全く別の話しであって、貴方の説を証明する根拠にはならないでしょう」
「お前さんもしつこいな」
 お地蔵さんが語気険しく云って、拙生を怖そうな目をして睨むのでありました。「ここでくだくだしい議論を、お前さんと闘わす気はないからな。げんなりだ。お前さんはこちらの極楽案内を、黙ってああそうですかと聞いていればそれで良いのだ」
「極楽省の実相について有耶無耶な点を、前の審問室で審問官さんや記録官さんにしたように、聞き質してはいけないのでしょうか? 」
「聞き質しても構わんが、一々繰り言みたいに話しの細部に引っかかるなと云っておる」
(続)
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