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もうじやのたわむれ 105 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「猪苗代湖ぐらいとは、思ったより小さいのですね」
 審問室で、三途の川が娑婆の長江の約四十倍の川幅とか、地獄省の太平江がそのまた四十倍なんと云う途方もない数字を聞いていたものだから、拙生はその蓮の花の池についても、なんとなくとんでもない大きな数字を予想していたのでありましたが、娑婆の猪苗代湖程度と云う大きさであるとは、少々物足りない気がして仕舞うのでありました。
「その蓮の花の池には中心部に丸い島が浮かんでいて、そこには王宮やら、中央官庁やらがあって、それに我々高級官僚の特別居住区にもなっておる。まあ、他の霊が立ち入る事の出来ない極楽省の政治的な中枢部である。別天地じゃな、云ってみれば」
「ふうん。一般の霊が住む居住区とその政治的中枢部を分ける、広大なお堀のような役目をしているのですね、その池が?」
「まあ、そうなる。一般居住区とは片道五車線の広くて長い跳ね橋で繋がれておる」
「お堀に囲まれた孤島に極楽省の中枢があって、世間とは跳ね橋一つによって繋がれていると云う事は、つまり、不満分子の攻撃とか反乱に備えて、と云う事でしょうかね?」
「先程から不満分子等、極楽省には一人だにおらんと云っておるではないか。何度も同じ事を云わせるな。不満分子がいないのに、反乱などが起ころうはずもない」
 お地蔵さんがまた拙生をたじろがそうと、怖い目で睨んで声を荒げるのでありました。
「しかしそうなら、そんな如何にも用心の良い処なんかに、極楽省の中枢部を設ける必要なんかないではありませんか?」
「あくまで身分や家格による区別、それに役所仕事の機密性を考えての事である。それに、将来立派な一廉の霊になって、何時かはあの島の中に住めるように頑張ろうなんと、池の対岸で中枢部を眺めながら、将来の栄達を願う若い霊達の励みにもなろうと云うもの」
「ふうん。そんなもんですかねえ」
「そんなもんである」
「極楽省は先進工業省なのでしょう?」
「勿論そうである」
「それなら、大工場地帯とか大商業地域なんと云う産業に関わる地区とか、居住霊が集まる繁華街なんかは、同心円の居住区とは別に、どこかに別誂えにあるのでしょうかね?」
「いや、夫々の居住区の中にある。居住区と云っても娑婆の町内とかご近所みたいな感じではなくて、一区画の居住地が霊口五十万から百万と云う数字であるから、お前さんがイメージしている程度の広さとは恐らくわけが違うであろうな」
「霊口五十万から百万となると、娑婆で云えば大都市ですね」
「そう。少ない霊口の居住地区でも、娑婆の八王子市とか長崎市の規模となる」
「八王子市とか長崎市、ですか」
 拙生はお地蔵さんがどうして、娑婆の数多ある人口五十万クラスの都市の中で、あんまり関係のなさそうなその二つの市をここで態々例として持ち出したのか、ちょっと興味をそそられるのでありました。しかしお地蔵さんからは依然として気さくな風情が全く感じられないのでありましたから、それを聞く勇気は到底湧いてはこないのでありました。
(続)
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