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もうじやのたわむれ 104 [もうじやのたわむれ 4 創作]

 痛みが、全くないのでありました。抓った手の甲はその部分が赤くなるわけでもなく、抓られた事を無視するように白っとした儘なのでありました。と云う事はこの手の甲には血の気がないと云う事でありましょうし、神経も通っていないのであります。
 つまり矢張り、この今の拙生の肉体てえものは、娑婆で持っていたものと瓜二つではあるものの、その組成が全然違っていると云う事でありますか。単にこちらの世に生まれ変わるまでの、要は閻魔庁の審理の結果が出るまでの、個体識別のためだけに、全く便宜的に、娑婆で持っていた肉体の外観が復元されているだけと云う事なのでありましょうか。
「どうした、急に黙りこんで?」
 お地蔵さんが拙生に聞くのでありました。
「いや、別に。・・・」
 拙生はおどおどとそう云うのでありました。お地蔵さんに今の疑問を聞き質しても良いのでありましょうが、拙生はなんとなく気後れするのでありました。余計な事を聞くなとまた怒鳴られたりすると、この、娑婆の時とは多分組成の違う、痛む事も傷つく事もない拙生の今の心臓にも、ひょっとしたらあんまり良くはないでありましょうし。
 いやそもそも、この拙生の今の肉体に、心臓なんと云う臓器が果たしてあるのでありましょうか。心臓どころか、この拙生の姿が、物体として解剖学的に完璧な人体として本当に復元されているのでありましょうか。まあ、色々考えたり他人の、いや他霊の云ったことが呑みこめたりはするのでありますから、脳らしきものはあるのかも知れませんが。・・・
「また黙って仕舞って、何が、別に、だ」
 お地蔵さんの無愛想な声が、拙生の思念の中に無遠慮に押し入ってくるのでありました。拙生はその声に改めてげんなりするのでありました。矢張りこう云った疑問をお地蔵さんにぶつけるのは、これはどうやら控えておいた方が無難なようであります。このお地蔵さんとの話しが片づいたら、後で閻魔大王官にでも聞いてみればよいでありましょうし。
「極楽省の統治形態は、阿弥陀九字王を専制君主と崇める、絶対主義体制と云う事ですね?」
 拙生は話しを元に戻すのでありました。
「その通りである」
「国土、じゃなくて省土の地形としては、蓮の花の咲く池を中心に、綺麗に区画された居住区が同心円状に何処までも果てしなく広がっているのですね?」
「それもさっき云った通りである。尤も、果てしなく、という表現は些か不適当であろうな。幾ら極楽と云えども、省土には限りがある」
「ああそうですか。しかしまあ、そうなると極楽省は途轍もなく広大な平野、と云うイメージで宜しいのでしょうかね?」
「まあ、身分の低い霊が住む辺境に至れば、そこは山あり谷あり川あり湖あり砂漠ありで、区画にもでこぼこが生じて、まん丸の同心円の儘と云うわけにもいかんがな。しかし身分の高い霊が住む中心部は、広大な平野と云っても差支えなかろうな」
「その、中心の蓮の花の池と云うのは、どのくらいの大きさの池なのです?」
「まあ、娑婆で云うと、猪苗代湖ぐらいであろうかな」
(続)
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