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もうじやのたわむれ 102 [もうじやのたわむれ 4 創作]

 お地蔵さんがそう云って事務机を掌で叩くのでありました。「我々官僚は省家と王家の悠久の繁栄のために、身を粉にして日夜働いておる。そんな不敬極まりのない了見の官僚など、絶対におりはせぬ。妙な云いがかりをつけると、ただでは済まさんぞ」
「ああ、これはどうも申しわけありません。云いがかりをつけるなんという気はさらさら持ってはおりません。お気に障ったならどうぞご勘弁を」
 拙生はお地蔵さんの剣幕にたじろいで、慌てて低頭するのでありました。
「おいおい、閻魔庁の備品を手荒く扱って貰っては困るぞい」
 横あいから閻魔大王官の声が割って入るのでありました。お地蔵さんも拙生も、揃ってそちらに顔を向けるのでありました。
「なんですか突然。横槍を入れるのはルール違反ですぞ、大王官」
 お地蔵さんが閻魔大王官に向かって声を荒げるのでありました。
「いや別にワシは、横槍なんぞを入れておるのではない。あんたはそうやって時々その机をバンバン叩いたりするが、それはアンタの自前のものではなくて、閻魔庁が貸し与えておる事務机じゃからな。もし壊されでもしたらワシが始末書を書かされる事になるんでな、何時もハラハラしておったのじゃ。幾ら自分の物じゃないからと云って、そう手荒に扱わんで貰いたいものじゃな。物は大切に扱えと学校で習わんかったのかい?」
「これは失礼をした。この亡者が妙な云いがかりをつけるものだから竟、昂じたまでです」
 お地蔵さんはそう云って閻魔大王官から視線を背けるのでありました。
「いや、私の云い様が悪かったために、閻魔大王官さんにまでご心配をおかけしたみたいで、まことに以って面目ない次第です」
 拙生は閻魔大王官に恐縮のお辞儀をするのでありました。目を上げると、閻魔大王官はまたしても拙生に、目立たぬように薄笑いながら拳を上げて見せるのでありました。どうやらそんなヤツに負けるなと、激励してくれているようであります。拙生も笑い返して、お地蔵さんに気づかれないように、同じ仕草をしてその激励に応えるのでありました。その拙生の仕草に閻魔大王官は、今度はピースサインを送ってくるのでありました。
「なにをこそこそ、わけの判らん目語をこの亡者と交わしておられるのかな、大王官?」
 お地蔵さんが閻魔大王官を睨むのでありました。
「いや別に」
 閻魔大王官は顔の笑いをほんの少量消してそう云って、自分の前の文机の上から、まるで斜陽が水平線に身を没するような感じで、ピースサインを下の膝の方にゆっくりと隠し去るのでありました。しかも陽炎のようにそれをゆらゆらと揺らしながら。
 それは別に慌ててお地蔵さんの目から自分の手を隠すと云った風情ではなくて、お地蔵さんにも充分見えるように、まるでからかうようにそうして見せるのでありました。この茶目っ気たっぷりの閻魔大王官の仕草に、拙生は失笑を禁じ得ないのでありました。なかなか人を食った、いや、霊を食った、(いや、霊、でいいのかしらこの場合。・・・ま、いいか)、娑婆にいた生意気盛りの高校生のような閻魔大王官の仕草であります。お地蔵さんが小さく舌打ちをしながら、苦々しげに閻魔大王官を一睨みして目を背けるのでありました。
(続)
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