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もうじやのたわむれ 98 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「まあ、審問室のヤツ等も結局は地獄省の役人だから、何とかお前さんを地獄に勧誘したいと云う了見で躍起になっておるのだろう」
 お地蔵さんはそう云って顔を顰めて見せるのでありました。
「先程、閻魔大王官のお言葉に不公平だとか云って噛みつかれましたが、今貴方が遣われた、地獄に堕ちる、とか、極楽往生、とか云う言葉の方が寧ろ、何やら私の気持ちを極楽省の方へ誘導しようとする、底意みたいなものが仄見える言葉のように思われますね。その方が閻魔大王官さんの先の発言なんかよりも、明らかに不公平でしょう。私にはそう聞こえて仕舞いますが。それに先程までいた審問室での、審問官さんやら記録官さんの言葉なんかは、万事に地獄省優位な説明にならないようにと、かなり細かく気を遣った言葉をお遣いだったと云う印象です。その抑制的な態度に、私は非常に好感を持ちましたけれど」
 別に態々こんな可愛げのない事を云わないでも良いのでしょうが、拙生はなんか竟、お地蔵さんの顔を見ていると、可愛げのない事を云いたくなるのでありました。
「私にお説教するつもりかね?」
 お地蔵さんがムッとして、少々威嚇的な目をして云うのでありました。
「お説教ではなくて、感じた儘を申したまでです」
 拙生の意地っ張りは娑婆にいた時からの持ち前で、これが災いしてつまらない損をした事が多々あったのでありましたが、娑婆を去っても相変わらずのようであります。
「まあ、よかろう」
 お地蔵さんは一度鼻を鳴らしてから、たじろがない拙生に苦笑ってそう云うのでありました。拙生の生意気を寛大にも見逃してくれるようであります。
 なんとなく閻魔大王官の方を向くと、閻魔大王官はニヤニヤしながら拙生とお地蔵さんの遣り取りを見ているのでありました。それからごく控えめな仕草で顔の前に拳を上げて見せるのは、頑張れと拙生を激励してくれているようでありました。別にここで閻魔大王官に激励して貰う謂れはないのでありましたが、しかし明らかに衣装負けの、小さな体躯の老翁が見せる愛嬌たっぷりのその仕草に、拙生は竟笑いを返しているのでありました。
「地獄省は八つの居住地域に分かれていると云うのは、審問室の方で聞いたかね?」
 お地蔵さんが語調を改めて云うのでありました。
「ええ、聞きました。それぞれの特徴と云うのも」
「極楽省は地獄省のようにまったく環境の違う個々の居住地域が、夫々分かれて存立しているなんという事はない。蓮の花が見事に咲き誇る巨大な池をぐるっと巡るように、同心円状に、整然と区画された居住区が何処までも何処までも広がっておるのだよ」
 拙生はそのお地蔵さんの説明に、娑婆の、綺麗に整備された広大な、分譲の墓地公園をふと思い浮かべるのでありました。
「極楽省には地方というものがないのですか?」
「ない」
 お地蔵さんは云い切るのでありました。「極楽省では高い霊格の霊程、蓮池に近い居住区に住んで、霊格が下がる程そこから遠のくような居住制度になっておる」
(続)
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