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もうじやのたわむれ 96 [もうじやのたわむれ 4 創作]

「さて、こちらの世の事情やら、それに地獄省、極楽省の大まかな話しなんぞは、審問室で審問官やら記録官から聞いたじゃろうな?」
 香露木閻魔大王官は肘を張った腕を末広がりに広げて、文机の上に掌を着いて、やや上体を前に乗り出して拙生に聞くのでありました。
「ええ、大凡のところは」
 拙生は一つ頷くのでありました。
「地獄もなかなか良い処じゃし、住んでみようかなと云う了見になったかいの?」
「まあ、そうですね。娑婆で聞いていた様相とは全く違っているみたいですし」
 拙生がそう応えると、後方で如何にも大袈裟な咳払いの声が一つ聞こえるのでありました。それは極楽省から出向してきている地蔵局の官吏が発したものでありました。
「なんじゃな、そこのお地蔵さん?」
 香露木閻魔大王官が、視線を拙生の頭越しに地蔵局の官吏の方へ向けて聞くのでありました。一応拙生もふり返るのでありました。
「そう云う、まるで地獄省に住む事を推奨するような云い方を、未だ極楽省の方の紹介も済んでいない内からされるのは、厳に謹んで頂きたいものですな。公平と云う見地からも大いに問題ですぞ、今の発言は。名誉ある閻魔大王官のお言葉とは思われないですなあ」
「おやおや、叱られて仕舞うたわい」
 閻魔大王官はそう云って自分の額を自分の掌で二三度叩くのでありました。
「それに私を、お地蔵さん、なんと云うのは止めて頂きたいものですな。いくら私の名前が、石野地造、だからと云って、それと地蔵局の役人である事を暗にかけて、揶揄するがごときものの云い方をされると、まことに以って心外です。あまりに私を軽んじ過ぎると、私としても極楽省の菩薩庁に、貴方の私に対する態度を報告しなければなりませんな」
「はいはい、それは大いに済まなんだのう」
 閻魔大王官はそう云って拙生を見て、顔を顰めて見せるのでありました。それから殆ど聞こえるか聞こえないかくらいの声で「全くシャレの判らん無粋な涎かけ野郎じゃ」と、独語とも拙生に云うともつかない云い方で宣うのでありました。
「ほんじゃあ、丁度だから、あそこのお地蔵さん、いやいや、地蔵局から来ている石野地造とか云う妙な名前の役人の処へ行って、先ずは極楽の事でもちょっくら聞いてくると良いわい。折角そこへ座ったばかりなのに、また立たせて気の毒じゃがのう」
 閻魔大王官はそう云って拙生を立たせようとする積りか、両掌を上に向けてそれをひょいと持ち上げて見せるのでありました。
「極楽の事でもちょっくら聞いてくる、と云う発言も問題ですぞ」
 石野地造さんがまたもや閻魔大王官の言葉に噛みつくのでありました。「ちょっくら、とか云われると、如何にも短時間に掻い摘んで、極楽省の話しをしなければならないようではないですか。もっと使う言葉に注意を払って頂きたいですな。私の果たすべき職務の上からも、そうはいきませんからな。じっくりと、そこに座っておる亡者が得心いくまで、時間をかけて極楽省の魅力的なところとか、住みやすさについて話しをさせて貰いますぞ」
(続)
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