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もうじやのたわむれ 90 [もうじやのたわむれ 3 創作]

 審問官が遠慮がちながら、拙生の論を否定するのでありました。
「準娑婆省は向こうの世と交渉があるわけですから、その辺りがなにやら関与していると云う事は考えられませんか?」
「それはないでしょう。準娑婆省なんぞに、向こうの世の相をコントロールするなんと云う力量は微塵もありません。あそこはただ、向こうの世に気紛れな要らぬちょっかいを出して、面白がっているだけの省ですからね、云ってみれば。まあ、向こうの世にこちらの世の存在を示唆すると云う役割は敢えて認めない事もないですが、しかしそんな示唆は、向こうの世にとってもこちらの世にとっても、絶対必要な事とは思われませんしね」
「ふうん、そうですか」
 拙生は少し口を尖らせて云うのでありました。「ま、準娑婆省の仕業ではないなら、その解答は今後のこちらの大学での研究成果を待つとしますが、しかしまあなんですね、こちらの世であちらの世の相を研究している大学なんと云うのがあるのですね?」
「そうですね。元あちらにいた方がこちらにいらっしゃるわけですから、それにあちらの記憶が自然に連続してあるのですから、研究としては手頃で好適な主題なのでしょうね」
「まあ兎に角」
 拙生はそう云ってテーブルを指で軽くトンと叩くのでありました。「我々亡者はこちらの世に生まれ変わった後も、娑婆での記憶は保持しているけれど、ここで行われた審問やこの後の閻魔大王官の審理に関しては、記憶として留まらないと云う事は、事実として判りました。それがどう云う理由からなのかは未だはっきり判らない、と云う事も判りました」
「源信さんのように偶に記憶のある方がいらっしゃいますが、一般的にはそう云う事です」
 審問官がボールペンをくるんと回すのでありました。
「ちょっと話しは逸れるかも知れませんが、こちらの世が娑婆を統御なんかしていないと云う事は、なんか、娑婆の方にちゃんと伝えてあげたい気がしますね、私としては」
 拙生はそう云って、もう一度テーブルを指で軽く打つのでありました。「そうすれば娑婆で延々と行われてきた、或いは今も行われている深刻ぶった宗教的対立やら紛争やらが、如何に無意味な事であるのか、娑婆の方でも判ると思うのですがね。それに宗教を出汁にした詐欺行為なんかも、社会から根絶出来るのではないかとも考えるのですがね」
「こちらとあちらは、前にも申したように相対的独立の関係ですし、どちらが上でも下でもないわけです。ですから貴方が仰るように、そう云う関係性が判れば、娑婆の方でも、長い歴史的宗教対立なんかをあっさりと決着出来る色々な方法やら、不埒な社会現象を発生させないための術やらが容易に見つかるのでしょうけど、しかし如何せん、こちらとあちらは交渉する術を持っていないのですから、それは残念ながら伝えようがない事ですな」
「ま、そうですね。これはもう、詮ない話しではありますね」
 拙生はそう云って少し俯くのでありました。
「貴方の遣る瀬無い心根、お察しいたします」
 審問官が気の毒そうに云うのでありました。
「今更私が、娑婆の事をあれこれ気にかけても仕方ないし、余計なお世話ですかな」
(続)
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