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もうじやのたわむれ 89 [もうじやのたわむれ 3 創作]

 そう云って審問官はヒヒヒと低い声で笑うのでありました。
「この間まで娑婆にいた私が、娑婆にいらした事もない審問官さんやら記録官さんに、こういう事を聞くのも変でしょうが、娑婆にも、こちらの閻魔庁みたいな役所やらがあったり、閻魔大王官みたいな人物がいらしたのでしょうかね?」
「私がはっきりと、あったとか、いたはずだとは断言出来ませんが、まあ、あったのかも、いたのかも知れませんですね」
「ああそうですか」
 拙生はなんとなく天井の方に視線を向けるのでありました。「『我々は宇宙人だ』の法則と帰納法的証明に依れば、あった事になるのでしょうけれど。・・・」
「まあ、そうですかな」
 審問官は無表情に首を縦にも横にもふらずに云うのでありました。
「それと、前にお聞きしたかも知れませんが、娑婆にいた頃の私には、こちら同様、ひょっとしたらあったかもしれない向こうの世での閻魔庁での審問やら、閻魔大王官に依る審理みたいなものの記憶は当然ないとして、しかし向こうの世の、そのまた前に住んでいたはずの世の記憶なんと云うものに関しては、これも片鱗すら蘇る事もありませんでしたけれど、これはこちらのように、世を跨いで連続する事はなかったのでしょうかね?」
「そうでしょうね」
 審問官があっさりと肯うのでありました。
「これはこちらの世と同じ様態には、ならなくても良かったのでしょうかね?」
「ならなくても良かったのか、と云う云い方はなんとなく形式論的に過ぎる感じがしますが、それは向こうの世が、そのまた前の世の記憶を必要としない世だったのか、それとも寧ろ、ない方が好ましい世だったのか、まあ兎に角、それは向こうの世の相、と云うものに依拠する事で、こちらとしてはその相を、何の感想もなくただ概観している以外にはないわけですから、私に応えようがあるはずもないことなのです、申しわけないですがね」
 審問官は特に申しわけなさそうな表情もしないでそう云って、拙生にゆっくりお辞儀をして見せるのでありました。
「向こうの世の相と云われたわけですが、それではその向こうの世の相を、そう云う風に決定しているものは何なのでしょうかね?」
「さあ、何なのでしょうかね」
 審問官は顔をやや傾げて拙生を見るのでありました。「その辺りを研究している地獄省の大学なんかもありますが、まだはっきりと解明されたとは聞いておりません。まあ多分、長い進化の過程の中でなにかの偶然が作用して、そのように脳の構造が決定されたのではないかと一応云われておりますが、これもあくまで現段階での推測以上ではありません」
「神様みたいなものがいらして、そう云う風にされたのだと思えば簡単ですよね?」
「まあ、そう云った観念論の蔓延る余地は未だありますが、しかし先程来申し上げているように、あちらの世と、あちらの世のあの世たるこちらの世は没交渉ですし、そう云う役割を担っている組織も人もこちらに存在しませんので、それはどんなものかと思います」
(続)
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