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もうじやのたわむれ 88 [もうじやのたわむれ 3 創作]

 拙生はそう聞いてみるのでありました。
「私が考えるところ、取り立てての不都合は何もないように思うのですが、まあしかし、どうしたわけかそうなるのです」
 審問官が頭を掻きながら云うのでありました。「まあ、要するにつまり、そう云う風に脳の構造が出来ていると云うしかないでしょうかね」
「ふうん、脳の構造がねえ」
 拙生は顎を撫でるのでありました。
「まあ、この審問やら審理の経緯を薄らと覚えている方も、実はごく稀にいらっしゃるのですよ。前に話した源信さんなんかもそう云う方の中に入ります。だから旅行でこちらにいらした時に、閻魔大王官と昔語りなんかがお出来になるわけです。だから、全く総ての霊が忘却して仕舞うと云うことでもないのは、不思議と云えば不思議な事で、これは未だ、脳科学的にも工学実在論的にも何故そうなのか解明されておりません」
「工学実在論?」
 その意味不明な言葉に拙生は戸惑うのでありました。
「ええ、哲学と数値自然科学をあっさり融合した学問です」
「ふうん、そんな学問があるのですか。・・・」
 拙生は少し口を尖らせるのでありました。「で、そうするとですよ、地獄省では、この閻魔庁が何をする役所なのか、誰もはっきりとは知らないと云うことになりますよね?」
「そうですね。そうなります。何をやっているのかさっぱり判らないけれど、何かしら重要な案件を処理しているらしい胡散臭い役所、とか云った実に曖昧な認識でしょうかね、地獄省に住む大半の霊の方々にとっては。閻魔大王官にしても、何だか知らないけれど、兎に角偉い人、いや、偉い霊、と云う感じですね。まあ、貴方が前にいらした娑婆の方にも、そんな得体の知れない機関とか役所とかがあったり、どうしてだかさっぱり判らないのに、嫌に世間から持て囃されたり、特段大した事跡なんぞなにもなさそうなのに大いに褒めそやされたりする御仁やらが、なんとなくいらしたりはしませんでしたかな?」
「まあ、そんな機関やら役所やらがあったような、なかったような。それにそんな風な人もいたような、いなかったような。・・・」
 拙生ははっきりイメージ出来る特定の機関とか役所とか、それに誰それが咄嗟には思い浮かばなかったのでありましたが、しかしまあそう云う組織なり人なりが、娑婆に存在していてもおかしくないような気は、なんとなくするのでありました。そういう存在なんと云うものは、実はその蔭に隠れている別の組織なり人物なりがいて、その蔭の組織なり人物なりがこっそり得をするために拵えた、傀儡のような表の存在であろうかと秘かに勘繰ったりしていたのでありましたが、しかしこちらの世の閻魔庁やら閻魔大王官の存在を鑑みると、ひょっとしたら拙生の考えもつかないような重大且つ深刻な役割を、娑婆の中で担っていた組織やら人物だったりしたのかも知れないなどと、ふと考えるのでありました。
「ま、その得体の知れない胡散臭い役所と世間から思われている処の職員である事に、私なんかは淫靡な矜持のようなものを感じたりもするのですがね」
(続)
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