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もうじやのたわむれ 86 [もうじやのたわむれ 3 創作]

 審問官はそう云って一つ咳払いをするのでありました。「まあしかし、そう何遍も名前を変えていると、アイツは面倒臭いヤツだなんと云う評判が立って、あんまり社会的体裁が良くないと云うので、まあ、改名は一回、拠ない事情があれば、精々二回までが一般的ではあります。ここ二百年くらいは、娑婆にいた時の名前に変えるのが流行しておりますかな。しかしこれも流行と云うだけで、実際はどんな名前でも構わないのです」
「ほう、姓名を変える事が出来るのですか」
「そうです。それから娑婆にいた時の名前が流行っているのは、本当に単なる流行で、なにか意味があっての事ではないようです」
「蘇った娑婆の記憶と微妙に関係があるのでしょうかね?」
「いや、そうでもないようです。多分、意外と無精な、安直な発想からだと思われます」
 審問官はくるんとボールペンを、如何にも投げ遣りに回すのでありました。「しかし娑婆の記憶が蘇り終わる段階で改名が出来るようになるのですから、その辺を慮った改名解禁年齢なのかも知れませんが、公的には一切そう云う説明はされておりません」
「まあ、ですから地方知事さんの名前が娑婆で聞いた事のある名前であったり、娑婆の野口英世さんが、こちらでも野口英世さんであったりするのですね?」
「そう云う事です」
「しかし、そう頻々と名前を変える事が出来るとなると、こちらの社会の中で、色々不都合が発生したりしないのですか?」
 拙生はそう聞くのでありました。
「いや、それは別にちゃんと登録管理されているから、殊更の問題はありませんよ。名前を変えれば、改名の前に使っていた名前は無効となって同時には使えませんし、一個の霊が幾つもの異名とか別名を使い分けるよりは、余程すっきりしているでしょう」
「名前の譲渡とか云う事例はあるのですか?」
「それはあります。しかしあくまで個霊的な誼の範囲内で行われるものです」
「そうなると、格式のある名前の譲渡に際して、金品が必要になるなんと云う事はありそうな気がしますが。例えば、何がし親方、なんと云う名前があったとして、それを譲渡継承する場合には多額の金品が動くなんと云う事が」
「まあ、或る閉ざされた社会にあっては、その名前を受け継ぐにあたって、個別的に金品を以って譲渡を完了する、なんと云う慣例のある場合もあるかも知れませんね。しかしこちらの霊名には商標とか版権のようなものは一切認められませんから、基本的に誰に憚る事なく、気に入った名前を勝手につける事が出来ます。金品が動くと云った例は、特殊な限定された稼業なんかに限られるでしょう。ま、それも常識の範囲内でと云う事で」
「今まで何の混乱も起きませんでしたか、その改名自由の件で?」
「いや、特には。だって娑婆でも、昔は元服して名前を改めたり、本名の他に字を用いたりとか、名前の混乱要因は色々あったけど、でも、取り立てて混乱しなかったでしょう?」
「まあ、それはそうですね、確かに」
「改名は、風習として定着して仕舞えば、結構あっさり社会に馴染むもののようですよ」
(続)
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