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もうじやのたわむれ 82 [もうじやのたわむれ 3 創作]

「まあ、多分それも、こう云う云い方はあんまり感心されないかも知れませんが、或る種の霊気とりのポーズなのでしょうね。そう云う風に喧伝する方が耳目を集められるとか、なんとなく情熱的で格好良く聞こえるとか、政治家としての体裁が良く見えるとか云った、自己演出の魂胆も多分にあると思われますけれどね。なにせ政治家さんですからね」
「その、霊気とり、と云うのは、人気とり、という事ですね?」
「正解!」
 審問官は片頬でシニカルに笑いながら、指先に力を入れない投げ遣りなピースサインをして見せるのでありました。
「では、向こうの世での知人なんというのは、その蘇った淡い記憶の中で、いったいどう云う具合に処理されるのでしょうかね?」
「そう云うヤツが向こうの世にいたなあ、と云った事実の記憶としてのみ認識されます」
「そのそう云うヤツに、こちらの世で再会するなんと云う事はないのですか?」
「大体に於いて、ないですね」
 審問官はにべもない云い方をするのでありました。
「偶然何処かで出くわすなんて事が、ひょっとしてあるかも知れないと思うのですが?」
「それはあるけど、しかしまあ、ありません」
「あるけど、ないのですか?」
「そうです」
 審問官はそう云って口の端に笑いを浮かべるのでありました。
「つまり、どう云うことなのでしょうか?」
「前にも申しましたように、亡者様は受付の順番により偶々選ばれたこちらの世の、まあ地獄省の場合で云えば、何処かの地方に住む女性から、その赤ちゃんとして新たに生まれ出て頂いて、その子供として育って頂くのです。そうするとその女性と、それにその旦那たる男性の遺伝子を受け継ぐ事になるのですから、向こうの世で持っていた風貌なんかとは、まるで違う顔つき体つきの霊となっておられるのです。まあ、性格とか気質とかも、それに境遇なんかもすっかり違っているでしょう。だから一見しただけでは、オマエは確か向こうの世では誰それだった、なんと云う判断はつかなくなっていらっしゃるわけです」
「ああ、成程ね。しかし一見しただけでは、と云われるのですから、能く々々考えてみると、判断がつく場合もあるのですね?」
「まあ、話してみて、前後の辻褄から判断出来る場合も、それはありはするでしょうね」
「例えば、荊軻が偶然こちらの世で始皇帝に出逢って、俄かに剣を抜いて身構えたり、項羽が劉邦に逢って、この下衆野郎なんと喚いて、たじろいだ劉邦とたちまち喧嘩をおっ始めたり、豊臣秀吉が徳川家康と再会して、あれ程頼んだのに、娑婆では我が子をあんな惨い目に遭わせやがって、なんと繰り言を云ったり、阿部定さんが吉蔵さんに逢って悩まし気な流し目をする、なんと云った光景も、可能性としてはあり得るのですよね?」
「それはありませんね」
 審問官はきっぱりと云うのでありました。「再度申しますが、淡い記憶ですから」
(続)
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