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もうじやのたわむれ 80 [もうじやのたわむれ 3 創作]

 審問官は額に手を遣って、嘗て娑婆のテレビや池袋辺りの寄席の高座で見た、林家三平のような仕草をして見せるのでありました。
「確かに、根っからの地獄の鬼さんとなると、そう云った感情は未知の領域ですよね。娑婆での生活経験がないのですから、娑婆の記憶が蘇るはずがないですものね」
 拙生はそう云った後、その自分の言葉に少し引っかかるのでありました。「いやしかしところで、今の確認と云うのか念押しになりますが、貴方がた鬼さん達は、娑婆の誰かの生まれ変わりと云うわけではないのですか?」
「我々は違います。我々はそう云った絡繰りの埒外におります。私等は亡者様の生まれ変わりのお手伝いをする側ですから」
「では、鬼さん達はこちらにずっとおいでになる、独自の存在だと?」
「そうです。鬼さんこちら、です」
 審問官はそう云って何度か、小さく手を鳴らすのでありました。
「そうなると、一般の霊の発生の源は娑婆にいた生命であるわけですが、鬼さん達の発生の源となると、これはいったい何なのでしょうか?」
「我々はまあ、純生物学的な発生形態、とでも云うべきか、何と云うべきか。・・・」
「要するに初めの初めから、鬼さんのお父さんとお母さんから、純然たる鬼さんとして、生一本の地獄っ子と云う形で生まれたと云うわけで、娑婆の誰かの生まれ変わりとしてこちらの世に誕生したのではないと云う事ですね?」
「ま、そう云う事です」
「一般の霊とは種族が違うわけだ、有態に云うと」
「そう云う理解で結構だと思います」
「へえ、鬼さんは特別なんだ」
 拙生は、千代田区隼町の時のように、ここはまわりくどく考えずにその儘、鬼さんこちらを納得するべきであろうと思うのでありました。
「我々の事は置くとして、まあ要するに、十五歳から二十歳までの情緒なんと云うものは、貴方自身で今後、身をもって確かめて頂く事になるのです」
「青春の光と影を経験するわけですね?」
「そうです。屹度ビタースイートな感じでしょうね。ちょっと羨ましい気もしますよ」
「そうでしょうかね?」
 拙生は顎の下を撫でながら云うのでありました。
「そう云った辺りをネタに、あちらの世の記憶と、こちらの世の現実に引き裂かれている自己の苦悩を小説に書いて、最近えらく売り出している一群の若手作家がいますよ。なんでもその自暴自棄にも見える生活態度から、無頼派、とかなんとか呼ばれて」
 今まで暫く黙っていた記録官が、横からそう紹介するのでありました。
「ほう、太宰治とか坂口安吾とか、織田作之助とか田中英光とか云う名前ではありませんか、ひょっとしたらそんな連中は?」
「いや、私は小説とかはあんまり読まないから、そんなに詳しくは知りませんが」
(続)
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