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もうじやのたわむれ 63 [もうじやのたわむれ 3 創作]

 大西江を挟んだ対岸のもっともっと西にある合衆群地方は、大昔に強艦地方から移住した霊達が、強艦地方との間に繰り広げられた苛烈な独立戦争の後に建てた地方で、ここも五十の郡、いや合衆群地方内では州と呼んでいるのですが、その州が強艦地方の夫々の群ほどの独立性はないにしろ、自治を尊重しながら統合している、と云った体制を採用していると云う事でありました。独立当初は十三州しかなかったのですが、より西の方を開拓して今の五十州になったのだそうであります。この西部開拓は合衆群地方挙げての大プロジェクトだったそうで、この時代を題材にした映画が多く製作されて、地獄省の他の地方でも人気があると云う事でありました。この映画製作のような娯楽産業も盛んで、映画やテレビ番組制作や、他にもミュージカルであるとか演劇であるとかアミューズメントパークであるとか、こう云うものも地方の代表的産業になっているのだそうであります。
 知事さんはワシントンさんと云う名前の方で、地獄省では若手ながらかなりの辣腕で聞こえていて、合衆群地方を強艦地方に勝るとも劣らない工業先進地にしたり、強力な地方軍を創設したりと、今では地獄省の最優等生を自称する程の自信に満ち溢れた地方となっているのだそうであります。まあ、地方としての歴史が浅いために、強艦地方辺りから軽く見られたりする事もあるけれど、しかし工業力と強大な地方軍に依って、決して侮れない存在となっていると云う事でありました。その建国、いや建地方精神から、地方内には自由の気風が濃厚にあって、新規に地獄省にやって来た亡者は勿論の事、その気風に憧れる各地方在住の霊までもが、今でも多くこちらへの移住を希望しているそうで、最近はこの新移住霊との文化摩擦や、社会制度上の格差等が大きな内政的課題だそうであります。
「強艦地方の南には、焦熱地獄と娑婆で呼ばれている処があります」
 審問官が紹介を続けるのでありました。「実際は、黄熱地方、と云うのが本当の名前でして、ここはかつて黄熱病と云う伝染病が大流行して、大変悲惨な歴史を経験した地方です」
「黄熱地方、が、つまり娑婆の焦熱地獄ですか。ふうん」
「そのウイルスを持った蚊に刺されると罹る病気で、突然の発熱や嘔吐の症状、それに黄疸が出て、死に至る場合も多いとされた黄熱地方の風土病です」
「娑婆にもありましたよ、黄熱病と云う病気は」
「野口英世さんと云う娑婆で細菌学を研究されていた方が、たじろぎもせず黄熱地方に入って、向こうの病院で日々血の出るような病気との格闘をされておりましたが、しかし惜しいかな自らもその病気に罹って、遂に素界に旅立たれて仕舞いました。その功績により、黄熱地方では大変な偉人として心服されていて、今でも大いに顕彰されておられます」
「野口英世さんは、こちらに来ても大した事をされたのですなあ」
 拙生は彼の博士とは、過日、同じ日本人だったと云う事以外になんの繋がりもないのでありましたが、些か誇らしげな心持ち等するのでありました。
「今はワクチンが開発されて恐れる必要はないのですが、嘗てそう云う風土病によって悲惨な事態が起きた事を銘じる意味で、その病気の名前が敢えて地方の呼称として採用されたのだそうです。そう云う意味では、深い心情から発した厳粛なる地方名だと云えます」
 審問官の顔が少し引き締まるのでありました。
(続)
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