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もうじやのたわむれ 62 [もうじやのたわむれ 3 創作]

「シルクロードの、こちらの世版ですね?」
 そう云いながら拙生は大旅館地方と云う名前の、いったいどこが魅力的なのか大いに疑問に思っているのでありました。失礼ながら、考えように依っては実に間抜けな、技巧の欠片もない語呂あわせでみたいではありませんか。しかしまあ、それは良いとしましょう。
「そこの知事さんは、・・・」
「屹度、アレクサンドル大王さんとか云う方なんかではないですか?」
 拙生はそう嘴を挟むのでありました。
「いやいや、アレクサンドルさんはもうずっと前の知事さんで、随分前にお亡くなりになりました。素界に旅立たれたのです」
 ああ素う界、と拙生はシャレたいところではありましたが、不謹慎な態度で話しを聞いていると思われるのもなんだから、それはぐっと堪えるのでありました。
「では、安禄山、とか云う人、いや霊だったりすると面白いかな」
「確かにその方は地獄省におられるようですが、娑婆では中国に居た方だったのでは?」
 審問官が聞くのでありました。
「そうですね。娑婆では唐の玄宗皇帝に仕えて、後に反乱を起こした人ですが、胡人とされています。ソグド人とも伝えられておりますから、ひょっとしたらこちらの大旅館地方に似あう人、いや霊ではないかなとちらと思いましてね」
「折角のご推理ですが、残念ながらその方とも違います。実際はフレグさんと云うお名前の方です。元々は東滑地方にいらした方なのですが、お兄さんのフビライさんが東滑地方の知事になられたので、自分も一旗と大いに奮発されて、大旅館地方に転居されて、そこで目出度く知事さんになられたのです。ですから東滑地方の知事さんと大旅館地方の知事さんはご兄弟でいらっしゃいます。屹度そう云った、人の、いや、霊の上に立つような偉大な方を輩出する優良な血筋でいらっしゃるのでしょうねえ、あのご一家は」
「ふうん、フレグさんですか」
 拙生はそう云って、またもや冷めて仕舞ったコーヒーを一口飲むのでありました。
 審問官に依れば、大旅館地方のもっと西には、娑婆では叫喚地獄と云われている、強艦地方、と云うのがあって、この地方の呼称は、なんでも、大西江、と云う地獄省の西方に位置する広大な川幅を持つ大河に君臨する無敵艦隊を有して、江を挟んだもっともっと西の衆合地獄、いや、合衆群地方、との強権的一方的な交易を行っていた、その往時の雄姿を記念してつけられたのだと云う事でありました。ここの今の知事はフェリペさんと云う霊で、なんでもエリザベスさんと云う女傑が、次の知事の椅子を虎視眈々と狙っていて、この二霊の間で現在、政治的な暗闘が繰り広げられているのだそうであります。
 強艦地方は工業先進地で経済力があり、自分達の文化に対する矜持も強く、高福祉政策が政治的特徴と云う事でありました。民主主義を最も鮮明に標榜する地方でもあり、いささか独り善がりな面はあるにしろ、地獄省ではリーダー的な存在だと、まあ、自分達はそう固く信じていると云うことでありました。地方内も特色のある様々な郡が夫々自治していたのですが、近年は大統合して大きな経済圏を形成していると云う事でありました。
(続)
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