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もうじやのたわむれ 59 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「おお、フリッツ・フォン・エリックですか。この人もジャイアント馬場さんの好敵手として、こちらでかなり人気がありますよ」
 記録官が横から少し興奮したような声を上げるのでありました。どうやら記録官は、大のプロレス好きのようであります。
「源信さんの本にある等活地獄と云うのは、・・・」
 審問官が記録官の興奮気味の声を横目に、落ち着いた物腰で、逸れようとする話題を元に戻すのでありました。「正しくは地獄省の東部に位置する草原地帯で、東滑地方と呼ばれます。娑婆におられた時にモンゴル人と呼ばれていた方々が、好んでお住みになる処です。テムジンさん、なんと云ったお名前の方が東滑地方知事をされておりますかな。いや、現在はフビライさんでしたかな。勿論モンゴルの方ばかりではなく、色々な国にいらした霊がいらっしゃいます。日本からいらした亡者の方も、結構多くお住みになっておられますよ。やや寒冷地で、牧畜業と競馬が主な産業でしょうか。冬は冷たい風が吹きますし雪も多いのですが、夏は過ごしやすくて、なんと云っても雄大な草原地帯ですから、伸びやかにゆったりと暮らしてゆけます。冬のスキーとかスノボも人気ですが、特に家族でも友人同士でも楽しめる夏の草スキーが非常に盛んで、住霊の皆さんはそれで大いに夏の一時をエンジョイされています。蒼色狼杯争奪草スキー選手権大会と云う地方挙げての催しもありましてね。つまり東にある草スキーの盛んな地域、と云うことで、東滑地方、です」
「等活地獄、は実は、東滑地方、だったのですね?」
「そう云う事です」
「ちなみに東滑地方の議会は、クリルタイ、なんと云う風に呼ばれていませんか?」
 拙生は調子に乗ってそんなことを聞くのでありました。
「いや、そういう名称ではありません。東滑地方議会と云う至ってそっけない名前です」
 審問官は無表情にそう云うのでありました。
「ああ、そうですか。・・・」
 冗談が軽くいなされたような感じで、拙生は気抜けして小声でそう呟くのでありました。
「黒縄地獄と云われているのは北部にある寒冷地で、針葉樹林帯と凍土地帯からなっております。針葉樹林帯は昔から地獄省の重点開発地域と云う事で、今は大きな都市が幾つも出来ておりますし、都市間を結ぶ鉄道とか高速道路網も整備されておりますよ。勿論鉄道も道路も、雪害や風害に対する対策も地獄省の最先端技術が投入されていて万全です。寒冷地特有の厳しい自然現象の影響なんかは殆ど受ける事もありません。各都市も自然発生的に出来たというのではなくて、機能重視に設計された霊工都市で、職住接近、通勤至便、買い物なんかも大型店舗が多くて便利で、完全防寒の長いアーケードの商店街なんかもあります。厳しい環境だからこそ、多くの最先端の工夫が盛りこまれていて、結構快適な生活が営まれております。郊外の冬空には雄大なオーロラが出現しますし、居住地域からすぐの処でウインタースポーツも手軽に楽しめます。若い人なんかに人気がある地方ですよ」
「霊工都市、は、人工都市、ですね?」
 拙生はそう訊ねながら、審問官の口調に、娑婆の不動産屋を思い起こすのでありました。
(続)
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