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もうじやのたわむれ 54 [もうじやのたわむれ 2 創作]

 記録官は審問官のその言葉に目礼して、きびきびとした動作でまた自分の席に戻ると、審問官の顔を、それから次に拙生の顔を見るのでありました。
「エホバ様、アッラー様、それにアフラマズダ様と云うお名前で、極楽省の方に住霊登録されている方はいらっしゃいませんね。阿弥陀如来様も大日如来様も、それからええと、弥勒菩薩様も普賢菩薩様も矢張りいらっしゃいません。まさかそう云った方々が地獄に居られるとは考えられませんが、しかし一応念のために地獄省の方も調べてみましたが、こちらにも当然ながら登録がありませんし、準娑婆省の方にも見当たりません。尤も、準娑婆省に関しては調査資料が古いものですから、その資料が作成された後に、そっちに留まっていらっしゃると云う場合も、可能性としては否定は出来ません。・・・ま、以上です」
 実は拙生は態々調べたりしなくても、国籍が日本国で葬儀の宗旨が浄土真宗の審問室の専門官なのだから、エホバ様やアッラー様は別にしても、他の仏様の居所くらいすぐにちゃんとした応えが出来るだろうにと、秘かに苛々しながら思ってはいたのであります。しかし記録官の手間にも足労にも恐縮するところがあったものだから、それは拙生の腹の中に仕舞って、成り行きの儘に何も云わずに感謝の表情を記録官に向けるのでありました。
「矢張り、極楽省の役所の名称にそんなのがあると云う以外、そう云うお名前の個人、いや違った、個霊はいらっしゃらないと云う事でしょうね」
 審問官がボールペンを回しながら悠長に云うのでありました。
「敢て、お聞きしますが、審問官さんも記録官さんも、もう既に阿弥陀如来も大日如来も、弥勒菩薩様も普賢菩薩も、そのなんたるかをちゃんとご存知ですよね?」
「ええ、勿論知っております。極楽省の役所です」
「記録官さんのご苦労には感謝いたしますが、しかしだったら、態々調べるまでもなかったのではないでしょうか? それは無意味だったと迄は云いませんが」
「しかしエホバ様やアッラー様の場合は、我々はよく承知しておりませんから」
 審問官が云うのでありました。
「まあ、より正確を期して、と云う事で調べたまでです。どうせ後の仕事がつまっているわけでもありませんから。それに偶々極楽省の役所と同じ名前の個霊が、決していないとは限りませんからね、調べてみないと」
 これは記録官がなんとなくのんびりとした口調でいうのでありました。
「律義な仕事ぶりには、大いに敬服いたしますが」
「まあ、なんにつけても念には念を入れませんと。これは私の性分なんですよ。判然としない儘では、私の気持ちがなんとなくモヤモヤし続けますから」
 記録官がそう云ってメモを背広の内ポケットに仕舞うのでありました。
「つまり要するに、話しを元に戻すと、神様とか超存在とか向こうの世で云っていた方々は、こちらにいらっしゃらないと云う事ですね?」
「そう云う風になりますね」
「それらの方々は、向こうの世で想像された観念と云うわけですか。つまりこちらに来てみて、私は漸く判ったわけです、向こうにもこちらにも、神も仏もない、と云う事が」
(続)
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