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もうじやのたわむれ 53 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「当然そうなると、前にお聞きしたように、極楽省とか地獄省とか準娑婆省とかここで使っている呼称も、国別宗旨別に全く異なる名前になるのでしょうね?」
「その通りです。その土地の言語で、その宗教で呼ばれている呼称に置き換わります」
「極楽省とか地獄省と云う省名は、唯一絶対の名称と云うわけではないのですね?」
「そうです。前に申したように他の審問室では地獄省はインフェルノ省とか、極楽省はヘブン省とか、パラディソ省とか、豊秋津なんたら省とか云う名前になるはずです。我々鬼も、デーモン、とかなんとかそんな風になりましてね。冗談で、鬼よりデーモンの方が恰好良いなあとか、仲間と居酒屋で酒を飲んだ時なんかによく話題にしたりしていますよ」
 審問官がハッハッハと笑うのでありました。
「云ってみればここで使っている、地獄省とか極楽省とか準娑婆省とか云う呼称も、鬼とか亡者とか云う言葉なんと云うものも、ここでだけ、と云う事で、この部屋以外では色々別の呼び方であって構わないのですね、単に、私が判ればそれで良いと云うだけで?」
「ま、そうです。全く便宜的に使用しているだけです」
「ちゃんとした生一本の、正式な、極楽省とか地獄省とか準娑婆省の名称と云うのは、どうなっているのでしょうかね?」
「それは、娑婆、じゃなかった、鯖を喰って娑婆からお鯖ら、いや違った、おさらばされた貴方が今後、こちらに住むようになったら、自ずと判りますよ」
 審問官はまたもや洒落混じりにそれだけ云って、なんとなく余裕の笑みのような、拙生の疑問をそう焦るなと窘める笑みのようなものを頬に浮べるのでありました。
「ああそうですか。・・・」
拙生は審問官の、如何にも思わせぶりをするようなその笑いに、なんとなく内心苛々とさせられるのでありました。
「まあ、今後の事は、そう性急に心配なさらずに」
 審問官の頬の笑いが、より濃くなるのでありました。
「ではまあ、それはそう云う事として、それなら違う疑問を呈させて頂きますが、そう云った言葉も宗旨もバラバラの儘の亡者が、一緒に混じりあって地獄省なり極楽省と、仮にこの部屋で呼ばれている処に住むのでは、言語のバリアや宗教的禁忌なんかのために、意思疎通が上手く図れなくて、色々小難しい問題が起きたりはしないのでしょうかね? これからこちらにご厄介になる身としては、その辺りがなんとなく不安になるのですがね」
 拙生は審問官の頬の笑いに対抗するように、真顔の儘で聞くのでありました。
「いやそれはご心配なく。こちらに住んで頂くについては、住む省が決まった後に、ちょっとした絡繰りが施されますから」
「へえ、絡繰り、ねえ。その絡繰りと云うのはいったい?」
「それはですね、・・・」
 審問官がその説明をしようとした時、ちょうど審問室のドアが開いて、記録官が片手にメモを持って入ってくるのでありました。
「おや、案外早かったね、青木君」
(続)
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