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もうじやのたわむれ 50 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「ああそうですか。あれは娑婆にいる私への、こちらの世からの何かしらのサインだと思わないでもないのでしたが、そうじゃなかったのですか。それじゃあ、向こうの人間の運命と云うものを、こちらが制御しているとか、見張っているとか云う事はないのですね?」
 拙生はそう聞くのでありました。
「はい。ありません。こちらの世と向こうの世は、相対的独立の関係です。貴方の仰った今のご意見は、些か観念論的だと思われます」
「成程、弁証法ですね。なんか話しが小難しくなってきましたなあ」
 拙生はそう云った後に、なんとなく居住まいを正すのでありました。「私の考えは観念論的だと云う事ですが、その辺をもう少し詳しくお聞きしたいのでけれど、こちらの世は神様と云うべきか何と云うべきか、そういった超存在みたいな方がいらっしゃって、その方があらゆるものを総て主宰されていると云うのではないのですか? 向こうの世にいた時に、なんかそう云う風に聞き及んでいたのですがね。まあ、これは一神教的な考え方で、仏教や神道なんかはちょいとばかり色あいが違うのかもしれませんが」
「いやあ、そんな風な事はないと思いますよ」
 審問官があっさりそう云って、少し口を尖らせるのでありました。
「その超存在はこちらの世どころか、あちらの世の方も実は完全統治されていて、あちらの人間の運命すらその手に握っておいでになるとか?」
「いやいや、私の承知している実状とは違いますねえ、それは」
「しかし地獄と極楽があって、向こうの世で仕出かした事の因果で、我々亡者がどちらに行くかふり分けられたりするのだとすると、これに関しては向こうで聴いた仏教的な絵柄と云うのか運命的見取り図と云うのか、兎に角そう云うものと同じではないですか?」
「再三再四申し上げているように、閻魔庁は亡者様のふり分けのお裁きをする処ではなくて、亡者様のご希望を聞いて、なるべくそれに沿うようにお手伝いする役所です」
 審問官はこれ以上ないと云うような、律義で真面目な表情をして云うのでありました。
「では端的にお聞きしますが、こちらに神様とか仏様とか、そう云った方はおいでにはならないのでしょうか?」
「まあ、キリスト様とかお釈迦様とかマホメット様とか、そう云った名前で呼ばれていらっしゃる、随分前にこちらの世にお越しになった、娑婆で宗教関係のお仕事をされていたらしい方々は、確かに極楽省の方に住霊登録されていたとは聞き及んでおりますが」
「ではエホバ様とかアッラー様とかアフラマズダ様とかは? 仏教で云えば阿弥陀如来様とか大日如来様とか、弥勒菩薩様とか普賢菩薩様とか、・・・」
「それは一部、極楽省の役所の名前です」
「ああ、そうでしたね。では前の方で云ったエホバ様とかは?」
 拙生がそう聞くと、審問官は戸惑ったような顔をして記録官の方を向くのでありました。
「ちょっと資料室まで行って調べてきましょうか、そう云うお名前の方が地獄省なり極楽省なりにいらっしゃるかどうかを?」
 審問官の戸惑い顔を受けて、記録官がそう云って立ち上がるのでありました。
(続)
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