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もうじやのたわむれ 45 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「いやいやいやいや、そんな事はないでしょうけど」
「いやいやいやいやいや、それがそんな事が大ありなのです」
「いやいやいやいやいやいや、・・・」
「青木君、その、いやいやの遣ったり取ったりを、未だずっと続ける積りかい?」
 これは審問官が記録官を、それに暗に拙生を窘める言葉でありました。
「いやいやいやいやいやいやいや」
 記録官が審問官の方に掌を横に忙しなくふりながら云うのでありました。
「いい加減にしなさい」
 審問官がツッコミの仕草をするのでありました。「そんなことを何時までもやっていたら、亡者様に失礼になるだろう。ねえ?」
 審問官の最後の、ねえ、は拙生の方に顔を向けての言葉でありましたから、当然こう云う場合の常識として、拙生も掌を横に忙しなくふりながら云うのでありました。
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
「もうええ、ちゅうねん」
 審問官が期待通りツッコむのでありました。
「ところで、こう云ったくどいかけあいの冗談はさて置き、後で教えて頂けると伺っていた、閻魔大王官のお裁きの件に関してなのですが」
 拙生は語調を変えるのでありました。「その問題の香露木さんも含めて、矢張り極楽に行くのか地獄に留まるのかを、我々亡者は閻魔大王官に裁かれるのですよね?」
「裁く、と云う言葉は何度も云いますように不適当でしょうね」
 審問官も物腰をクールに改めるのでありました。
「お裁き、と云う事ではないと再三お聞きしましたが、ではその、お裁きではないところの具体的な按配と云うのか、様子と云うのか、その辺は?」
「裁きは、何か罪があってこそ行われるものでしょうが、一体に亡者様には、裁かれるべき罪はなにもないと云うのが、我々の亡者様に対するスタンスであります」
「ほう。我々にはなにも罪がないと仰るので?」
「そういう事です」
 審問官は威厳を持って一つ頷くのでありました。
「しかし娑婆に於いて、大小や顕秘の別はあるにしろ、私なんかも色々浚われるべき罪科を多く所有して、この世へやって来たと考えるのですけれど。・・・」
「いやいや、娑婆での罪科は娑婆での罪科であり、それはあちらで裁かれる性質のものなのですから、娑婆にお娑婆ら、いや、おさらばした段階で、それはもう無意味と云うか、すっかり帳消しとなるべきものです。こちらではそんなもの、与り知らぬことですよ」
「与り知らぬ、ですか?」
「そうですね。例え向こうでその罪科を償わないでこちらにいらしたとしても、だからと云ってその報いをこちらに委託されても困るのです、我々としては」
「ふうん。そうあっさり云われてみれば、その通りなのでしょうけれど。・・・」
(続)
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