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もうじやのたわむれ 38 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「あんまり私なんかにはお話しされたくない、機微に属するような事なのでしょうか?」
 拙生は審問官の顔を上目で窺うのでありました。
「そう云う事もないのですが、まあ、機会があったら後程お話しさせて頂きましょう」
 審問官は拙生から目を逸らすのでありました。
「それから、この定理の話しをもう少しすれば、ですがね」
 記録官がUターンの特例の話しから話頭を逸らすように、そう云い継ぐのでありました。「これを遡って敷衍してみると、貴方がこの前までいらした人間界の前にも、どうたら界、とか云ったものがあって、その前にも、こうたら界、があってと云う風に、後ろにも延々適用出来る事になるわけです、屹度」
「ああ、それはそうなるはずですね」
 拙生は記録官の方を向いて頷くのでありました。
「ですから、娑婆だけを舞台にした、輪廻転生も生まれ変わりなんと云う現象も、理論上起きるはずがないのです。前世、今生、来世と云う、向こうの世で喧伝されていた生死の道筋も、これも実は実相ではないわけですね」
「ええと、今度生まれ変わったらまた貴方のお嫁さんになりたいわ、とか、あいつは来世でも愛妻家になるだろうな、とか、俺は今度生まれ変わるとしたら彼女のブラジャーになりたい、等と云った科白も、理論上は破綻していたわけですし、七度生まれ変わって仇を討つとか、七度生まれ変わって国に報ずるなんと云う楠木正成の心意気も、実は実現するはずもない空回りでしかなかったのですね?」
「そうです。それは娑婆中心主義とでも云うのか、向こうの世でのみに通用する、人間界的なあまりに人間界的な、閉ざされた中での修辞以外ではないと云う事になります」
「まあ、人間界でもそういった言葉等は、修辞的演劇的科白なんかとして使われていたのですが、それは実相を掠めてもいない、全く空虚な修辞だったと云うわけですね。あくまで、向こうの世へのUターンと云う現象がないのですからね」
 拙生は腕組みをするのでありました。「で、Uターンの特例の話しですが、・・・」
「どうしても、そこにいきますなあ、話しが」
 審問官が拙生のしつこさに些かげんなりした顔をするのでありました。
「だって、そうやって言葉を濁そうとされるところが、如何にも気になるじゃないですか」
「まあ、そんなとりたてて深刻な理由からではないのですがね。・・・」
「実は閻魔大王官の手際の悪さに起因するのですよ、その特例と云うのは」
 記録官が云うのでありました。「閻魔庁の閻魔大王審理所では、亡者様の落ち着き先を審理してその結果が出たら、大王官が決裁印を押して、その書類を、極楽行き、地獄行き、再審理、と書かれた、机上の三つの箱の何れかに入れることになっているのですが、九十名いる閻魔大王官の中の某さんが、老霊と云うのか、まあ、かなりの高齢で、頑固で、物忘れがひどくて、指先の力が極端にない方なのです。ですから時々、決裁書類がその何れの箱にも入れられずに、机の上に放って置かれる場合があるのです」
「はあ?」
(続)
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