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もうじやのたわむれ 37 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「だったら、その素界と云うものがあるかどうかは実証出来ないわけですよね?」
 拙生はまたも食い下がるのでありました。
「いや、それは間違いなく存在すると云えるのです」
 審問官は如何にも確信あり気に断言するのでありました。
「しかし、向こうの世でもそのての事は、一部ではげんなりする程ワイワイ議論されていたことですが、結局のところ、それを実証する事なんか不可能なのじゃないですか?」
 拙生は尚も食い下がるのでありました。
「いやいや、だって、向こうの世にいた貴方が、現に今、こうしてこちらに来ていらっしゃるではありませんか。これはもう疑いようのない事柄でしょう?」
「そう云えばそうか」
「だから、人間界から霊界に来るのが定理であるように、霊界から素界に行くと云うのも定理となるわけですよ」
「成程ね。論理的には確かに」
「まあ、帰納法ですな。しかもかなり必然性のある」
 審問官が持っていたボールペンでテーブルを軽く叩いて見せるのでありました。その打撃音が、妙に小気味良く辺りに響くのでありました。
「いやまあ、恐れ入りました」
 拙生は深々とお辞儀して見せるのでありました。
「いえいえ、どういたしまして」
「そうするってえと、その素界の後にも、なんとか界と云うのがあって、そのなんとか界の後にもなにそれ界と云うのがあってと、そうやって延々と続くわけですね」
「はい。理論的には」
「輪廻転生と云うわけじゃないんだ」
「そうです。向こうの世へのUターンは、特例を除いてなしです」
 審問官は両手でX印を作って見せるのでありました。「しかし断わっておきますが、準娑婆省にいる霊に関しては、なにかの拍子に向こうの世、つまり娑婆にうっかり戻ると云う現象も偶にあり得ます。一応念のためこの事を申し添えておきます」
「つまり、向こうの世で云う、蘇り、と云う現象ですね。それは準娑婆省が娑婆内の怪奇現象を統括しているためですかね?」
「そうです。しかし先程も申したように、本来はそうあってはならないのです。亡者様は須らくこちらで閻魔庁の審理を経て、その後極楽省か地獄省に住んで頂くのが理想でして」
「それはそうでしょうね、こちらにしてみれば」
 拙生は納得の頷きを一回した後、背凭れから少し体を立てて審問官を見るのでありました。「ところで先程云われた、Uターンの特例、とはどう云った按配の事なのでしょう?」
「ああ、まあ、ですね、それはですね、つまりですね、・・・」
 審問官が、先程指摘した九州方言の丁寧口調、いや、丁寧口調に聞こえるちっとも丁寧でない口調でそう云った後に、暫し云い澱むのでありました。
(続)
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