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もうじやのたわむれ 36 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「あの世のあの世と云うのは、いったいどう云う世なのでしょう?」
 拙生は審問官が額を掻き終えるのを待ってから問うのでありました。
「こちらで霊が死んだら、素、と云うものになると云われております。向こうの世で人間が死ぬと霊なるものになり、その霊がこちらの世で死んだら素なるものになるのです」
「素、ですか。・・・」
「素、う、です。いや失礼。下らない洒落でした。ですからこちらで霊が死んだ後は、素界と云う処に行くわけです」
「素界、ですか。ふうん」
 拙生はやや顎を挙げてそこを撫でるのでありました。
「素界にもこちらのような極楽省、地獄省、準娑婆省のようなものがあって、死んで素になった霊は、ま、こちらでこうして行っているのと同じような審理を経て、素界の各省のようなところで暮らすこととなります」
「素界にも極楽省とか地獄省があるのですね?」
「まあ、極楽省とか地獄省とか、まだ死んでもいない私等がそう云う名前かどうかは知り得ませんが、兎に角、そう云う処に行って住むことになるわけですな」
 そう云った後、審問官が少し身を乗り出すのでありました。「因みに、話しはちょっと逸れますが、こちらの葬儀は娑婆のそれよりも大体が途轍もなく大袈裟且つ盛大でしてね。あちらこちらから親類縁者が大勢集って、七日七晩飲めや歌えの大騒ぎをするのが仕来たりとなっています。どう云う了見で、何時からそう云う事をするようになったのか知りませんが、妙な風習ですよね。中には麻雀をやり出す連中もいれば、花札の座布団を囲む連中もいたり、勝手にギターの弾き語りをするヤツが出たり、カラオケセットを持ちこんでくるのもいたり、どこからか石ころを拾ってきて、どちらが高く積めるか競争するヤツとかもいたり、またその積み上がった石を横から意地悪に蹴り崩すヤツもいたりで、もうとんでもない大騒ぎとなります。それに費やす費用も大変なもので、その費用を作るために、こちらにいる間、働き詰めに働かなければならないと云う霊もいるくらいです」
「それは大変ですねえ。まあ、私も今後、余所事ではないことになるけど」
「もう、何のためにこちらの世に来たのか判らない、地獄だ、と云って皆嘆いております。つまり云ってみれば、往生するのも往生するわけですわ」
「おや?」
 拙生は片頬で笑って、審問官の顔を覗き見るのでありました。「その、地獄だ、と云うのと、往生するのも往生する、と云う地口を云いたくて、そんな話しをされたのですかな?」
「いや、面目ない。私の仕様もない魂胆を見透かされましたな」
 審問官はそう云って照れ臭そうに頭を掻くのでありました。「兎に角、死んだ霊は素になって、素界に旅立つのです」
「でも向こうの世の連中が、なんだかんだと云ったところで死後の世界を見た者がいないのと同じで、こちらでも、その素界を見た霊とか、行った霊はいないわけですよね?」
「それはそうです」
(続)
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