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もうじやのたわむれ 35 [もうじやのたわむれ 2 創作]

「感情の目安になるわけですね、角が出ている、出ていないと云うのが?」
「そうですね。しかしトランプのババ抜きとかポーカーをしている時、角が出ると不利じゃありませんか。だから如何なる時も情緒に左右されず、なるべく角を出さないようにするのが成長した大人の鬼であると教育されるのです。角の出し入れをちゃんと上手にコントロールするのが、我々大人の鬼の嗜みです。まあ、大人になってものべつ角を出しまくっている、何時も感情剥き出しの、子供みたいな鬼も中にはおりますけどね」
「感情の目安と云うところでは、つまり犬畜生の尻尾と同じようなものだ、原理的には」
 拙生は態と無神経なことを云ってみるのでありました。
「いやいや、そう云う不躾なことを試しに不意にここで云われても、私の頭から角は出てきませんよ、残念ながら」
 審問官がそう云って、ハッハッハと余裕の笑いを拙生に送るのでありました。
「これはどうも、恐れ入りました。申しわけありません」
 拙生は頭を掻きながら審問官に向かって、テーブルに頭がつくくらいの深めのお辞儀をするのでありました。
「で、なんでしたっけ、当初のご質問は?」
 審問官が頭を起した拙生に聞くのでありました。
「元々の質問は、この世のあの世は向こうの世か、と云うのですよ」
 これは記録官が審問官に教える言葉でありました。
「そうだそうだ、その件だ。うっかり忘れて仕舞いました」
 審問官が角の出ていない自分の頭を、自分の拳で軽く叩いて見せるのでありました。「こちらで身罷った霊と云うのはその後、向こうの世、即ち娑婆に戻るのか、と云う質問ですが、それは端的に云ってそうではありません」
 審問官はボールペンでテーブルを軽く打つのでありました。
「娑婆に戻れると云うのではないのですか?」
「そうです。一旦こちらへいらした限りは、二度と娑婆には戻れません」
 拙生はその審問官の科白を聞きながら、何の関係もないのですが、なんとなく向こうの世で見たテレビドラマなんかによくある、刑事施設に収監された重刑の囚人同士の会話を思い浮かべているのでありました。
「霊は、向こうの世に再び人間となって、いや、人間かその他の生き物となって、戻ることは全くないのですね?」
「ありません」
 審問官のその云い草がいかにもクールで、にべもないように聞こえるのでありました。
「では、こちらで再び死んだ霊は、どこに行くのでしょう?」
「あの世のあの世です」
「まあ、そうでしょうが。・・・」
「ああ、こう云う応え方は如何にも無愛想か」
 審問官はそう云って愛想笑いを浮かべて額を掻くのでありました。
(続)
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