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もうじやのたわむれ 26 [もうじやのたわむれ 1 創作]

 審問官が続けるのでありました。
「第一、地獄省が極楽省に、亡者様のふり分けの事で文句を云われることは、まあ、正しい正しくないは別として、こちらとしても判らないこともないのですが、逆こちらがあちらに何かもの申す材料なんと云うのは、今のところとりたててなにもないのですよ」
 審問官はそこでまた、ボールペンをくるんと回すのでありました。「それはいちゃもんをつけようと思えば、なんとでもつける事は出来ますけど、しかし準娑婆省じゃあるまいし、如何にもこじつけみたいな事を云い募って、こちらの品格を自ら貶めるなんと云うのもつまらない。ですから我々は今後も粛々と、公明正大に亡者様の審理とふり分けを行うだけで、極楽省のいちゃもんに対しても、理性的に対応していく所存です。それに、一応建前の上では、両省は友好関係にあると云うことになっていますからね、終戦後はずうっと」
「準娑婆省が無責任な流言なんかを流して、地獄省と極楽省の関係を悪化させる、なんと云うことはないのでしょうかね、自分達の漁夫の利的な国益、いや省益のために?」
 拙生が質問するのでありました。
「まあ、地獄省と極楽省が険悪な関係になったとしても、それで準娑婆省が得をすると云う事は、今のところ取り立てて何も考えられませんかな」
 審問官はボールペンを、小さい振幅で横にふりながら云うのでありました。
「第一、準娑婆省ごときの手練手管に乗る程、地獄省は落ちぶれてはいません。極楽省も然りです。省としての格が全然違います」
 これは記録官のつけ足しでありました。
「しかし準娑婆省がなにを考えているのか、何を仕出かすのか判らない省であるのなら、一抹の不安程度は、ないとは云い切れないのではないですか?」
「そうですね。それはそうかも知れません。しかし若しそんな事を画策しているとすれば、準娑婆省は逆に壊滅的な破綻を覚悟しなければならないでしょう」
そこまで云って、記録官が唇の端を少し、悪戯っぽいような躊躇いがちなような笑いに動かすのでありました。「つまり、逆さ牡丹、いや、逆さ破綻、です」
「あれ、それはちょっと、苦しいですかな」
 拙生はやや意地悪な笑いを浮かべて、記録官を上目で見るのでありました。「そんな、無理矢理このタイミングで、ずっと前に日本酒の話しの時に出た『司牡丹』のもじりの『逆さ牡丹』を、『逆さ破綻』と懲りもせず再度おもじりになるとは、考えてもおりませんでした。実にどうも、これは恐れ入る次第ですなあ」
 拙生が云うと、記録官は林家三平みたいに額に手を添えて見せるのでありました。
「どうも済みません」
 記録官は続けるのでありました。「いやね、あの時貴方に、あのもじりを批判していただいたのでしたが、なんとなく自分としては、それでもあれは、結構良いもじりではなかったかと、未だにちょっと未練たらしく思っていたのもので、つい。・・・」
「あれ、あの時の私の言葉に、ちょっと傷つかれましたかな。それはなんとも申しわけなかったです。そんなつもりじゃなかったのですが。・・・」
(続)
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