So-net無料ブログ作成

もうじやのたわむれ 18 [もうじやのたわむれ 1 創作]

「要するに、地獄省としては準娑婆省と云う省を全面的に信頼していないのですね?」
 拙生はそう記録官に訊ねるのでありました。
「そう云うことです。向こうに港湾を管理させたら、その野放図で無責任な仕事ぶりから、船の定期的な運航に障りが出るやも知れませんし、下手をするとスムーズな船の発着を強請りの条件にして、こちらに話しにもならない無理難題を突きつけてくる場合もあります。我々はそれを危惧するわけです。準娑婆省と云う処は、ま、そう云った省なのです」
「おいおい青木君、そのくらいにしといた方が良いぞ」
 審問官がそう云って記録官の口の動きを制止しようとするのでありました。
「しかしそうなら、向こう岸にある地獄省の港湾施設の安全とかも、ちゃんと保証出来ないのじゃありませんか?」
 拙生は審問官の記録官を制止する言葉を横目に、尚も記録官に聞くのでありました。
「いやまあ、その辺はこちらもちゃんと万全の備えをしておりますから」
 これは審問官が拙生に云った言葉でありました。
「準娑婆国内、いや省内の安全とか船の運航の事とか、準娑婆省を通ってその領内にある港まで来て、そこから船に乗らなければならない我々亡者にとっては、安全は大いに気になる問題ですので、これは亡者として聞く権利があると考えますが?」
 拙生は審問官に少々つめ寄るのでありました。
「まあ、それはそうですな」
 審問官はそう云って拙生から椅子の背凭れに身を引くのでありました。「港にはこちらの最新装備で武装した防衛隊を派遣しておりますし、亡者様が港湾までお出でになるあちらの路程に限り、一定間隔で屯所を設けて防衛隊員を常駐させております。ですから亡者様の安全には充分配慮しております。準娑婆省内を通る路程もそんなに長くもないですし」
「防衛隊とは地獄省の軍隊ですか?」
「まあ、そういった実力組織ではあります。そうではありますが、前にお話しした極楽省との大戦に負けた後、こちらの軍隊は解散させられて仕舞いました。しかしどう云う経緯かは知りませんが、戦後暫くして新たに防衛組織を創設しようと云う話しになりましてね、それで防衛隊と云う組織が創られたのです。ですから防衛隊は軍隊とほぼ同じ体裁で、同じ事をするんですけれど、法制度上はあくまで軍ではないのです。やむを得ない限定的な場合のみ実力を行使することの出来る、専守防衛の組織なのです」
「これも娑婆にいる時、何処かの国のややこしい事情として聞いたような話しだな」
 拙生はそう云って少し口を尖らすのでありました。
「準娑婆省の武器の殆どは旧式のものばかりで、こちらの最新兵器との実力比は八海山、いや八対三です。まるで機関銃と竹槍です。ですから、準娑婆省にはこちらに対する無意識の恐怖があります。そんな小さくない心理面も考慮すれば、亡者様の安全は充分確保されていると我々は考えております。ま、それでも不測の事態もありはするでしょうが」
「不測の事態が、過去にあったのですか?」
 拙生は少し身を乗り出して審問官に問うのでありました。
(続)
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0