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大きな栗の木の下で 97 [大きな栗の木の下で 4 創作]

「バス、なかなか来ないわね」
 沙代子さんがそう云いながら唐突に下を見てしゃがみこんだのは、沙代子さんの足下に何処から現れたのか白いネコが近寄って来たからでありました。
「あ、可愛い!」
 沙代子さんはそう云ってネコの背を撫でるのでありました。ネコは餌を強請るように沙代子さんの近づけられた顔に向かって首を伸ばすのでありました。
「野良ネコかな?」
 御船さんが云って沙代子さんの傍にしゃがんで、ネコの頭に手を載せようとするのでありましたが、ネコは今度は頭上に翳された御船さんの掌に鼻を近づけるのでありました。
「首に鈴がつけられているから、屹度この辺の家の飼いネコよ。毛並みも綺麗だし」
 成程ネコの首には小さな鈴が一つリボンで吊り下げられているのでありました。
「さっき教室でクリスマスケーキとかの話しをしていたから、ひょっとしたらお前にケーキ、それに俺に豚カツの匂いを嗅ぎつけて寄ってきたのかも知れない」
 御船さんが笑うと沙代子さんはまさかそんなことと云って、しかし念のため自分の制服の襟の匂いと、横の御船さんの肩の辺りの匂いを嗅ぐのでありました。肩口に沙代子さんの顔が不意に近づけられたものだから、御船さんはひどく緊張するのでありました。近接した沙代子さんの髪から、ケーキの匂いではなくて仄かなシャンプーの匂いが漂ってくるのでありました。
「あたし前にネコ、飼っていたことがあるのよ」
 沙代子さんがネコの背を何度も撫でながら云うのでありました。「このネコみたいに全身は白いネコだったけど、鼻のあたりにちょっと茶色の斑があったの」
「ふうん。俺はネコも犬も縁がなかったな、今まで」
「普通ネコって無愛想で、人に阿ないでクールに生きているじゃない。でもウチのネコは心根が優しいのか、あたしが外に出るときは玄関まで送りにきたし、帰ってくると急いで玄関にお迎えにもくるのよ、尻尾なんかふりながら」
「犬みたいなネコだな」
「あたしが家に居ると、もうあたしにベッタリ。トイレにまでついてくるの」
 沙代子さんがネコの背を撫でながら少し首を傾げるのは、前に飼っていた自分のネコの事を懐かしく思い出しているのでありましょう。
「それは雄か、雌か?」
「うん、雄ネコ。あたしをお母さんだと勘違いしていたのかも知れないわ」
 いや、お母さんではなくて、恋人だと思っていたんじゃないかと云おうとして、御船さんはその言葉を口にするのを辞めるのでありました。そう云った類の茶化しを沙代子さんは喜ばないかも知れないと、ふと危惧したからでありました。しかし若し自分がそのネコだったとしたら、間違いなく沙代子さんを恋人だと思って、同じように四六時中つき纏ったでありましょう。考えように依っては実に羨ましいネコであると、御船さんは面目なくもこんな戯けたことを秘かに考えているのでありました。
(続)
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