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大きな栗の木の下で 92 [大きな栗の木の下で 4 創作]

 そういって取り出した緑色の布に包まれた弁当箱は、確かにかなりのビッグサイズであると、今更ながら、御船さんはそれを見て呆れるのでありました。大食漢と云うのか、体格から鑑みれば徒食漢と云う方が的を射ているところの御船さんは、高校に入学する時、母親から金を貰って、一番大きな弁当箱を態々街の金物屋で買ってきたのでありました。
「御船君のお弁当の大きさは、結構女子の間では評判よ」
 沙代子さんが口元を手で隠して笑いながら云うのでありました。
「ほう。でも弁当箱の大きさなんかで女子の評判を取っても、そんなに嬉しくないかな」
 御船さんはそう云いながら、机から取り出した空の弁当箱を体操着の入ったバッグに仕舞うのでありました。
「いいじゃない、なんに依らず女子の関心を引くのは」
「お前、なんでこんな時間に教室に残っているんだ?」
 御船さんが聞くのでありました。
「綾子とか咲子とかで、さっきまで文化祭の時の展示作品の打ちあわせをしていたの」
「展示作品?」
「書道部の二年生の作品の課題についてさ」
「あれ、お前書道部だったっけ?」
「そうよ、知らなかった?」
「うん、初耳だ」
「そりゃそうか。御船君とはそんなに親しくないから、あたしが書道部に入っているってこと、知らないのは当たり前か」
 沙代子さんはそう云って自得するように何度か頷いて見せるのでありました。御船さんは沙代子さんが書道部に所属していることを自分が今まで知らなかったことを、なんとなく申しわけなく思うのでありましたが、しかしそれを知るべき義理は特になにもないかとも一方で思うのでありました。
「その打ちあわせはもう済んだんだろう?」
「そうだけど、帰りのバスの時間待ちで残っていたの」
「お前、バスもあんまり通わない僻地に住んでいたんだっけ?」
「そうじゃないけど、バスの乗り換えするのが面倒だから。直通バスに乗ろうと思ってさ。直通バスは一時間に一本しか来ないの」
「ああ、そいで、バス停で待っているのもなんだからって、教室にいたのか」
 御船さんはそう云ってさっきの沙代子さんの仕草と同じに、納得するように何度か頷いて見せるのでありました。
「ぐずぐずしていたら、前の一本に遅れちゃってさ。だからもうちょっとここで、手持無沙汰に残っていなければならないわけ」
 沙代子さんはそう云って自分の腕時計を見るのでありました。
「ふうん。でもそんなに直通バスに拘らなくても、乗り換えで帰った方がずっと早く帰れただろうに。なんとなく無意味に時間潰しをしているような気もするけど」
(続)
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