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大きな栗の木の下で 59 [大きな栗の木の下で 2 創作]

 出産経験のない兄嫁の方があたしなんかより、赤ちゃんのミルク作るのもオムツの交換なんかもてきぱきとこなして、それに赤ちゃんがどうしてムズがるのかも、的確に判断して対処するものだから、実際赤ちゃんも快適そうなのよ。あたしもう、兄嫁を尊敬しちゃったわ。なんでそんなに細かいところまで気が回って、仕事の手際も良いのか、呑気なあたしにはまるで芸当を見ているみたいだったわ。
 兄嫁が云うのにはね、自分は今後四人以上の子供を産んで、賑やかに大忙しに暮らす積りでいるから、出産や育児に関してはもうすっかり知識が頭につまっているんだって。その実地訓練みたいな要領で、色々興味津々に試そうとしているところが、傍で見ていててきぱきと見えるんじゃないか、だってさ。何の用意もなく子供を持ったあたしとは、もう既に予めの周到さからして、月と鼈と云ったところね。でも本当に、とても頼もしかったわ。あれなら例え子供が一ダース居たとしても大丈夫ね、屹度。
 因みに、今兄夫婦には三人の子供が居るの。それだけでも充分賑やかよ。でも兄嫁の目論見ではもう一人以上子供をつくる予定だから、これは未だ先のある話よ。
 で、兄嫁は気が強い人だから、矢岳君が偶に家に居てギターなんか弾いていると、そんな子供の遊びみたいなものにかまけていないで、アンタも買い物とか色々手伝いなさいよ、なんて遠慮なく叱るの。あたしそれ、ちょっと冷や々々したんだけど、でも一方で、兄嫁の言葉に心の中で秘かに拍手したりするの。それはあたしも矢岳君の、マイペースな分、つまり非協力的であるところを普段から少し苦々しく思ってもいたからなの。
 矢岳君も疲れているんだけど、兄嫁には逆らえないと云った感じで、渋々兄嫁に云われた仕事をするわけ。矢岳君はやっとあたしの実家の母が帰ったと思ったら、すぐにもっと強面の口煩いのが来たと云うんで、ちょっとうんざりだったみたいよ。あんまり兄嫁が煩いと、仕事でスタジオに行って来るとかなんとか云って、ギター持ってアパートを出て行ったりしていたわ。
 そんな時、男も何時までも見栄え良くはないんだから、好い加減あの男の顔の造作になんかポオッとしていないで、今の内から亭主教育に励んだ方がいいぞって兄嫁はあたしに云うの。あたしも兄嫁みたいに、何でも忌憚なくポンポン矢岳君にものが云えるようになりたいなんて思うんだけど、まあ、あたしには無理みたい。あたしがポンポン云うとしても、屹度兄嫁みたいにあっけらかんとした陽性な感じにはならないものね。
 で、兄嫁は十日間くらい居てくれたかしらね。矢岳君の居ない日は家に泊まってもくれたの。その十日間であたし、なんか気持ちが随分楽になったのよ。兄嫁の育児ぶりを見て、色々勉強にもなったしさ。まあ、育児の当事者のあたしが、出産経験のない兄嫁の育児ぶりが勉強になると云うのも、なんとも情けない話なんだけどもね。・・・>

 沙代子さんは横座りにした足を前に伸ばすのでありました。片手を地面についていたのでありましたが、今度は両手をついて体を支えるのでありました。御船さんは脚を伸ばして座る沙代子さんの横顔を見るのでありました。海からの風が沙代子さんのシャツの襟を忙しなくはためかせるのでありました。
(続)
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