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大きな栗の木の下で 58 [大きな栗の木の下で 2 創作]

 母は赤ちゃんの一ヶ月検診まで傍に居てくれたの。勿論矢岳君も毎日じゃないけど帰ってくるし、母の寝具もウチにはないから、近くのホテルにずっと泊まって、朝から夜まであたしと赤ちゃんと一緒に居てくれたわ。その間、折につけ色んな子育てに関することも教えてくれたし、兎に角母を、あたしすっかり頼りにしていたのよ。
 父は母があたしの処へ行くって云った時、ちょっと不機嫌な顔はしたけど、でも勿論、あたしのことが心配だから、行くなとは云わなかったみたい。寧ろもし母がちっとも腰を上げなかったとしたら、逆に、なにを愚図々々しているんだ、早く行ってやれって怒ったかも知れないって母が云っていたわ。ま、父の心根もそんな感じ。あたし両親には今でも本当に感謝しているわ、不肖の娘として。勿論、そんなこと滅多に云わないけどさ。
 矢岳君は、本心は母が来たのが面白くはなかったみたい。自分達の結婚を認めてくれないあたしの実家になんか頼らないで、自分も出来る時は手伝うから、子育てくらいあたし一人でなんとかしろって、当然そんな横柄なこと口には出さないけど、そんな風な心境だったと思うの。男の人って結局出産とか子育ての大変さが、肌身に沁みるような感じでは判らないと思うから、まあ、仕方ないけどね。
 それに手伝うって云っても、実際は矢岳君、殆ど家に居ないんだからさ。地方での仕事があるから仕方がないかも知れないけど、でも、必要な時に必要な、心からの手助けがなければ、それに面倒臭がらないでちゃんと、あたしの悩みを聞いて欲しい時に聞いてくれなければ、矢張りそんなには頼りには出来ないわけじゃない。だからあたしとしては、母が居てくれないと、本当に困るの。
 でもその母も一ヶ月検診の後帰って仕舞って、あたしはまた赤ちゃんを抱っこした儘途方に暮れるの。母はなんかあったらすぐ出て来るから、欠かさず連絡を入れろって云ってくれたんだけど、でも、矢張り東京まで出て来るのは大変だしね、そう頻繁に呼び出すわけもいかないじゃない。
 そうしたらさ、母と入れ替わるように、大阪の兄嫁が来てくれたの。兄嫁は兄と高校の同級生で、兄と結婚する前からあたしも知っていた人なの。田舎で結婚式挙げた後は兄の仕事が大阪だから、そこでずっと暮らしていたのね。
 兄嫁はちょっと姉御肌の人でさ、母からあたしのひどく心細そうな様子を聞いて、ここは一番、自分が行ってやらなくちゃって云う感じで来てくれたわけ。出産経験のないオマエが行っても何にもならんとか、俺の面倒は誰が看るんだとかぶつぶつ云いつのる兄を一喝して、敢然と出て来てくれたのよ。
「お兄ちゃんを放って置いていいの?」
 なんてあたし兄嫁に聞いたの。
「まさかあの図体で飢え死になんかしないよ。偶にはあたしの有り難さが身に沁みるように、一人で何でもやらせてみるのも良い薬よ。家のことなんかあたしに頼り切って普段から何にもしない無精者なんだから、様見ろってところよ。まあ、実の妹のアンタに兄さんへのこんな邪険な云い草を披露するのも、なんか妙な感じがしないこともないけどさ」
 だって。あたし笑っちゃったわ。
(続)
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