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「四月廿九日。祭日。陰。」12 [「四月廿九日。・・・」 創作]

 小一時間程そうしていると、何時ものように睡魔が男を襲うのでありました。これも何時も通り、この儘寝てしまおうと男は思うのでありました。腹痛に疲れ果てたと云うこともありましょうが、腹の痛みが少しは減じたから、眠気が兆してきたのであります。詰まりこの苦痛が終息する段階に入ったのかもしれません。なかなか良い按配であります。ここで眠って、起きた時には腹痛が去っていれば取り敢えずは一息であります。ならば今の時点でこの腹痛を過剰に恐怖する必要もないと云うことであります。偶々ちょっとした気紛れのように起こった不調なのでありましょう。そんな風に考えると男は幾らか落ち着くのでありました。息を細く吐くと、男は瞼を開いてはいられなくなるのでありました。

 まどろんだ後に目を開けた時、まだ全く腹の痛みは去っていないのでありました。男は失望に眉根を寄せるのでありました。企画は裏切られたのでありました。痛みの程度にはなんの変化もないようであります。男はもっと眠れるだろうかと考えるのでありました。寝て仕舞うしか、この苦痛から逃れる術をなにも持っていないのでありましたから。
 朝まで本格的に寝入るためには、部屋を暗くする方が良かろうと思うのでありました。男は両手で体を支えて時間をかけて上体を起こすのでありました。体を起こすと痛みが腹の中で暴れるのでありました。しかしなんとか立ち上がって、男は裸電球に手を伸ばすのでありました。灯りが消えると一瞬、増幅した分の痛みが一緒に消え失せたような気がするのでありました。
 男はまた布団の上にへなへなと崩折れるのでありました。老眼鏡を外してそれを小机の開いた本の上に置くのでありました。焦げ茶色のズボンも紺色の背広も着た儘であり、首にもマフラーを巻いた儘でありましたが、何時ものように男はそんなことに一向お構いなしに、足の方に山を作っている毛布と布団を片手で取ってずるずると引き上げると、その中に潜って蹲るのでありました。
 なかなか寝つけないのでありました。男は横臥の儘掌や指で腹を擦り続けるのでありました。腹痛から気を逸らすために縦横斜めに、軽く叩くように、押して揉むように、時々唸り声も上げて、刺激に対する皮膚の慣れを避けるように手を小刻みに様々動かし続けるのでありました。
 矢張り何時も通りに男はその動きに疲れ果て、うとうとと意識を現から遊離させるのでありました。しかし深い眠りに落ちることはどうしても出来ないのでありました。覚めては腹痛の塊が腹の中に未だ凝り固まっているのを確認し、再度前と同じに手を動かし、身じろぎして、その内また眠りに落ちるのでありました。かなり長い時間、男はそういうことを繰り返すのでありました。
 睡眠と覚醒の何度目かの満ち引きの後に、男は尿意を覚えるのでありました。それを我慢して布団の中で蹲っていると、次第に意識が覚醒の側に打ち寄せられていくのでありました。こればかりは布団の中で堪えていることも出来まいと、男は片肘をついて上体を押し上げるのでありました。冷気が布団の中に、すばしこい狐のように忍びこむのでありました。男は布団を押しのけてよろよろと立ち上がるのでありました。
(続)
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