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石の下の楽土には 83 [石の下の楽土には 3 創作]

「それは、・・・」
「島原さんは、屹度、娘がそうしたんだとお考えなんですね?」
 島原さんがゆっくりした瞬きをしながら頷くのを見て、拙生は続けるのでありました。「その石の蓋と云うのは、娘の力で動かせるものなんですか?」
「かなり重いだろうけど、出来ないことは、ないと思う」
「それなら、なんのために、娘が納骨棺の蓋を開けたんでしょう?」
「それは、色んな推察が出来ると思う」
 島原さんはまたもや一気に猪口の酒を空けるのでありました。その仕草は酒を飲んでいると云う意識が殆ど薄れて、注がれたものは腹の中に収めなければならないと云う島原さんの律義さからの、反射的或いは機械的な作業のようでありました。
「例えば寂しさに娘が惑乱して、つい家族の骨壷に触りたくなったとか、骨壷を家に持ち帰ったとか、そう云うことでしょうかね?」
 拙生がそう云うと島原さんは俯いて返事をしないのでありましたが、それはそんな風なことを島原さんが考えているのではないと云う査証のようでありました。
「そう云うことかも知れないけど。・・・」
「いや、島原さんはそうじゃないとお考えのようですね」
 島原さんは顔を上げて拙生を見るのでありました。
「うん。そんなことのために、娘は蓋を開いたんじゃないような気がする。娘がそうしたのは、私があくまで咄嗟に閃いたことなんだけど、もっと切羽詰まった意図からだったんじゃないかと思うんだよ」
「なんですか、その切羽詰まった意図と云うのは?」
「詰まりね、・・・」
 島原さんはそう云った後次の言葉を口から放つことを逡巡して、空になった猪口を両手で包んで何時までも凝視するのでありました。まるでその底の方に蟠っているかも知れない娘の意図を、見極めるように。だから拙生は徳利を取ったはいいものの、次の一杯を猪口に注ぎ入れることが出来ないのでありました。暫く重苦しい沈黙が続くのでありました。
「だから、詰まり」
 島原さんがようやく口を開くのであありました。「蓋を空けて、納骨棺の中に、その、詰まり、娘がさ、入って仕舞ったんじゃないかと、・・・、」
 拙生はその島原さんの言葉を聞いて思わず失笑しようとするのでありましたが、慌ててその笑いを口から外に漏らさないために、途轍もなく大粒の錠剤を飲みこむ時のように、喉を引き攣らせながら懸命に空気の塊を嚥下するのでありました。島原さんの話に対して笑わないと誓約したのでありましたから、ここで笑うわけにはいかないのであります。
「娘が、墓の中に、入って仕舞ったんですか?」
 喉のあちらこちらに引っ掛かりながらも、飲みこんだ笑いが漸く胃に落ちついてから拙生がそう聞くと、島原さんは猪口を見つめたまま頷くのでありました。
「私は、そう思えて仕方がないんだよ」
(続)
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