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石の下の楽土には 82 [石の下の楽土には 3 創作]

 島原さんはまた猪口の酒を一気に空けるのでありました。
「それは、長い時間が経つと、結局剥がれてしまうものなんじゃないですか?」
 拙生が云うのでありました。
「いや、女房の墓の納骨棺が開けられた時期と、娘の家族の墓の納骨棺が開けられた時期は殆ど同じ二年程前でね、その位の時間でモルタルが劣化してしまうことは、多分ないはずなんだよ。現に女房の墓の方はちゃんとしているんだし」
「誰かが故意に剥がしたと云うことでしょうか?」
 拙生は再び島原さんの猪口に酒を満たすのでありました。
「判らない。それにもっとよく見てみると、納骨棺の蓋が本来嵌っている位置からすこしずれていて、僅かに歪んで置いてあることに気づいたんだよ」
「詰まり、誰かが蓋を開いたと云うんですか?」
 拙生がそう聞くと島原さんは黙った儘、納骨棺の蓋の微小な変化ように、ほんの僅かに身震いするのでありました。
「それは判らない。でも、・・・」
「初めから少しずれて蓋が置かれていたと云うことは考えられないですか、納骨の仕事をした人が大雑把な性格の人だったりとかで?」
「そうかも知れないけど。でもそう云うことに対して遺族は結構デリケートになるものだから、墓の管理の仕事をする人は、気を遣って丁寧な仕事をするんじゃないのかな」
「いやあ、その辺は自分にはよく判らないですが」
 拙生は頭を掻くのでありました。
「私はなんか、その蓋のモルタルの剥がれと、ずれが気になって仕方がないんだよ」
「それじゃあ矢張り島原さんは、誰かが納骨棺の蓋を開いたと思っているわけですね?」
「その可能性も、あるよね。・・・」
「モルタルの破片とか、墓の周りにあったんですか?」
「モルタルの破片?」
 島原さんはたじろぐようにそう云って、眉根を寄せて拙生を見るのでありました。
「誰かが剥がしたのなら、その破片がそこいらに散らばっていてもいいじゃないですか」
 島原さんは拙生から目を逸らして、その辺りの状況を思い出そうとするのでありました。
「それは、なかったような気がする。でも、私は迂闊で、そんなこと考えもしなかったから、見落としたのかも知れないけど。・・・」
 島原さんは少し混乱したようで、猪口を手にとって、ほんのちょっと逡巡した後、それをまた一息に飲み干すのでありました。「でも、発覚するのを恐れて、その破片はどこかに始末したのかも知れないし」
「まあ、そう云うこともあるかもしれませんが」
 拙生は島原さんの猪口に酒を注ぎ入れるのでありました。「じゃあ、もし誰かが蓋を開けたとして、そんなことを誰がすると云うんでしょう?」
 拙生が云うと、島原さんは拙生を切なそうな目で見上げるのでありました。
(続)
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