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石の下の楽土には 79 [石の下の楽土には 3 創作]

「秀ちゃんも、料理をするんだ」
 島原さんが話しかけるのでありました。
「まあ、アタリメを焼く位は。それにそんなものは料理の内に入りませんから」
 拙生はそう云いながらコンロに焼き網を載せて火つけ、細く裂いたスルメを軽く焙るのでありました。それから焙り終えたスルメを皿に盛って、横にマヨネーズを絞ってから島原さんの前に置きます。
「それにしても島原さんは、夕食は食べたんですか、今日は?」
「いや、あんまり食欲がないから」
 島原さんはそう云って拙生が出したスルメの一片を指で摘んでその端にマヨネーズを少しつけて口に入れるのでありました。摘む時も口に放りこんでからも島原さんがあんまり熱そうな素ぶりを見せないものだから、拙生は焙りが足りなかったかしらと、ちらと心配になるのでありました。
 島原さんは拙生が出したスルメには殆ど手をつけずに、寡黙に猪口を傾けているのでありました。もし島原さんが懸案を解決しようとして、今頭の中で色々と考えを纏めようとしているのであれば、ここでなんの関係もない余計な話題をふり向けない方がよかろうと考えて、拙生は島原さんに話しかけないのでありました。
 島原さんが時々顔をほんの少し顰めるのは、なにか嫌なことにでも思い当たるからなのでありましょうか。それに深刻そうに額に皺を寄せているかと思えば、急に眉を開いて弛緩した表情になってみたり、それから暫くすると口の端が微妙に動いて自嘲的な笑みが浮かんだりと、島原さんの頭の中では様々な思考が、時々鈍い光を放ちながら惑星のようにゆっくり順行しているのでありましょう。
 ・・・・・・
 暫くして拙生は徳利のお代わりをもう一本、黙って出すのでありました。それを猪口の上でゆっくりした間隔で数回横に傾けた後に、島原さんは徐に顔を起こして拙生を見るのでありました。
「秀ちゃん、これから話すことを、下らない妄想だって笑わないでくれるかい?」
 島原さんはそう前置きするのでありました。
「なんですか? 笑うなと云われれば、自分は勿論笑いませんよ」
 拙生がそう真顔で返すと、島原さんは一つ頷いて拙生から一瞬目を逸らして、そうしてまたすぐに拙生の顔をじっと見据えるのでありましたが、それは拙生が本当に笑わないで島原さんの話を聞くことが出来るかどうか、拙生の云った言葉の重みを計量しているからなのでありましょう。
「ほら、私が千葉の従弟の葬儀から帰った日、もう夕方になったんだけど、ちょっと気になって墓地へ行ってみたんだよ」
「気になったと云うのは、墓地で逢う娘のことが気になったと云うことですか?」
「うん。私が三日間行かなかったから、ひょっとしてあの娘が心配しているかも知れないと思ってね。まあ、心配なんかしていないかも知れないけれど」
(続)
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