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石の下の楽土には 73 [石の下の楽土には 3 創作]

「それでも俺だけ除け者は、気分が悪いじゃねえか」
「大丈夫だって。除け者にされてないから」
 時津さんがそう云って高来さんの猪口に酒を注ぐのでありました。
「オヤジは声かけられてんの?」
 薬屋の主人が小浜さんに聞くのでありました。
「ええ。アタシはあの日初めて行ったんですけどね、一応お誘いは受けましたよママに」
「ありゃ、そうなんだ。常連だけってわけじゃないんだ、そいじゃあ」
 時津さんが云うのでありました。
「ま、俺がこのオヤジを連れて行ったような感じだったら、ママも俺に気を遣って、オヤジにも一応声をかけたんだろうな屹度」
 薬屋の主人はそう云って徳利を真っ逆さまにひっくり返して、自分の猪口に残っていた酒を殆ど注ぎ尽くすのでありました。
「いや別に、茂木さんに気を遣ってと云うんじゃなくて、あのママはアタシに来て欲しくて、初めて来たアタシも招待したんですよ。アタシが一目で気に入ったから」
 そう云いながら小浜さんは拙生の方にカウンターの下に隠した指を二本示して、もう二本日本酒の燗をとサインを送るのでありました。
「けっ、そんなんじゃねえよ。なんでも都合良く解釈するんだからな、このオヤジは」
「で、皆さん行かれるんですか?」
 小浜さんが三人に聞くのでありました。
「うん、行くよ俺は」
 高来さんがそう云って、別にそうする必要はなにもないのでありますが、手を元気良く真上に挙げて見せるのでありました。
「俺も行くよ、絶対」
 時津さんも同調します。
「お前んところの日陰の桃の木は大丈夫なのか、お前が朝まで帰らなくても?」
 薬屋の主人が先程殆ど空けてしまった徳利を、自分の猪口の上にまた逆さまにするのでありました。それを見て拙生は燗の具合を確かめるのでありました。
「大丈夫だろう、多分。組合の宴会でつきあわされたとかなんとか云えば」
 時津さんが頼りなさそうに云うのでありました。「怒られたら、そん時はそん時だ。まさか俺を叩き出しはしないだろうしさ、その位のことで」
「でも色っぽいママの居るスナックで、朝まで飲んだくれていたなんて後で知れたら、かなりやばいんじゃないの、ケンちゃんところは」
 高来さんが心配しているのかそれとも面白がっているのが、どちらともつかないような云い方で云うのでありました。
 小浜さんが出来上がった燗酒を拙生から受け取って、一本は時津さんの前に置いて、もう一本を薬屋の主人の方へ差し向けながら聞くのでありました。
「茂木さんは、勿論行くんでしょう?」
(続)
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姥桜のかぐや姫

はじめまして
「枯葉の髪飾り」あまりのおもしろさに一揆読みしました。
目下、「石の下の楽土には」の73も読み終わりました。
更新が待ちどうしいです(^0^)。
by 姥桜のかぐや姫 (2011-01-12 15:58) 

汎武

姥桜のかぐや姫さん、
コメントを有難うございます。望外の幸せであります。
長々しい駄文にお付きあい頂いて、恐縮しております。
by 汎武 (2011-01-12 16:40) 

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