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石の下の楽土には 66 [石の下の楽土には 3 創作]

「そんじゃあ、折角のお誘いですから、お伴させていただきましょうかね」
 小浜さんが乗り気を見せるのでありました。
「よっしゃ、決定だ。でもオヤジはあくまで俺の引き立て役にしかならないんだから、ママに妙なちょっかい出すんじゃないよ」
「引き立て役かどうかは、未だ判らないじゃないですか」
 小浜さんがそう云って徳利を差し出しながら、ちらと自信を見せるのでありました。
「無理々々。云っとくけど相手は人間の女なんだから、魚釣りの魚みたいにはいかねえよ。それにこっちは、これまで随分元手を入れてるんだから」
 薬屋の主人は猪口に酌を受けながら云うのでありました。
「入れた元手と回収が思い通りに釣りあわないのは、事業ではよくあることですよ」
 小浜さんが余裕の発言をするのでありました。薬屋の主人は小浜さんの言葉にふんと鼻を鳴らしてから、拙生の方を見て聞くのでありました。
「後で拗ねるといけないから一応誘うけどよ、秀ちゃんはどうだい、行くかい?」
「行きません」
 拙生は即答するのでありました。拙生は以前から行かないと云っているではありませんか。それに誰がそんなことで拗ねると云うのでありましょうか。
 島原さんは時々箸の動きを止めて顔を上げ、小浜さんと薬屋の主人の会話を聴いているのでありましたが、当然その中に口を割りこませることはないのでありました。ただ、割りこむとか会話の邪魔をする気など毛頭ないのではありましょうけれど、鍋焼き饂飩が熱いせいか島原さんはそれを啜りこむ時、暫し軽く咳きこむのでありましたが、それを薬屋の主人が一々、顔を顰めて反射的に身を横に少し引いて避けるのは如何にも過剰な反応であり、拙生には厭味な仕草にしか見えないのでありました。
 島原さんが鍋焼き饂飩を食べ終えた後も、小浜さんと薬屋の主人はスナック『イヴ』へ繰り出す話を続けているのでありました。島原さんはこれでは到底小浜さんが自分の相手をする暇はなかろうと判断したようで、おしぼりで顔をつるんと拭くと拙生が食べ終わり頃に出した茶を一口飲んで、両手をカウンターに添えてゆっくり席を立つのでありました。
「お帰りですか?」
 拙生が聞くと島原さんはこっくりと頷くのでありありました。
「ええ。そろそろ私はお暇しましょう」
 その声で小浜さんが薬屋の主人との会話を中断するのでありました。
「ああ、毎度有難うございます。如何でしたか、鍋焼き饂飩は?」
「美味しかったです。またお願いします」
 島原さんはそう云って小浜さんに笑いながら頭を下げるのでありました。
「オヤジ、ホッケの一夜干しと厚揚げ、貰おうかな」
 薬屋の主人が小浜さんと島原さんの挨拶の遣り取りが終わるのを待てないように、小浜さんに言葉を投げるのでありました。小浜さんは島原さんに一礼すると、はい承知と薬屋の主人に返事をして、そそくさと注文の品の調理に取りかかるのでありました。
(続)
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ダイナ

今年は途中からでしたがお世話になりました!
来年もまたよろしくお願いします(*^^*)
by ダイナ (2010-12-30 12:23) 

汎武

こちらこそ思いがけぬご高配に与り有難うございました。
来年も宜しくお願いいたします。
by 汎武 (2010-12-30 14:02) 

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