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石の下の楽土には 59 [石の下の楽土には 2 創作]

「でもあたし、人と話すのが苦手だし、気が利かないし、愛嬌もなにもないから、雇ってくれるところなんかないかも知れない」
 娘がそう云って花立ての花のように少し項垂れるのでありました。
「ところで、暫くは大丈夫なの、収入がなくても?」
 島原さんが聞くのでありました。
「ううん、大丈夫じゃない」
「なんだったら、少し融通してあげようか?」
 そう云うと娘が顔をあげて島原さんを見るのでありました。島原さんは真っ直ぐに自分に向けられているその目にたじろぐのでありました。余計なことを云ったかしらと、島原さんは少しおどおどとするのでありました。
「有り難いけど、それは遠慮しとく。何時も図々しくお花とか貰っていて、その上そんなことまで甘えられないもん、お爺ちゃんには」
「でも困っているのなら、別に遠慮なんかしなくてもいいんだよ」
「でも、遠慮しとく。そんなことまでして貰うと、あたし明日から、ここでこうしてお爺ちゃんに逢えなくなっちゃうもん」
 娘はそう云って漸く島原さんから目を逸らすのでありました。「でも、有難うお爺ちゃん」
 島原さんはその娘の言葉で、そんなに酷く娘の気分を害したわけでもなさそうだと判断して、ようやくに胸を撫で下ろすのでありました。
「もし、新しいアルバイトのこととか、うまくいかないようだったら、遠慮なく相談して貰っていいんだからね。こんな私だって、なにかしら君の力になれることもあるかも知れないから」
 島原さんはそう云いながらも、娘の力になってやれることなんか、今の自分にはなにもないだろうと思うのでありました。無責任にそんな頼りになるところを娘に示唆しておいて、いざとなったら結局、娘の落胆する顔を見るのが落ちだろうと云う予想図が、島原さんの頭の中にリアルに展開されるのでありました。島原さんは自分に舌打ちをして、娘に見えないように苦い顔をするのでありました。
「有難うお爺ちゃん、心配してくれて」
 娘が笑い顔を向けるのでありましたが、その笑いに力がないのは、娘が自分を当てにしていないことの査証であるように島原さんには思えて仕舞うのでありました。
 娘の口数がその日は何時もより少なく感じるのは、と云っても娘は何時も然程お喋りでもないのでありますが、それは矢張り、事態が結構深刻である故でありましょうか。島原さんは大いに心配なのでありました。
「早くあたしの家族が、あたしを向こうに呼んでくれないかしら」
 別れ際に娘が云った言葉が、島原さんは気にかかるのでありました。それは屹度自分の現状を嘆く娘の単なるレトリックなのでありましょうが、なにかもっと直截な言葉であるようにも、島原さんには採れるのでありました。
「そんなこと、云うもんじゃないよ」
(続)
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