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石の下の楽土には 43 [石の下の楽土には 2 創作]

 拙生はそう云って焼酎のお湯割りを盆に載せるのでありました。「まあ、改まって聞かれると、こう云うタイプが好みだっていうのは、はっきり云えませんかねえ」
「どんなのでもオーケイと云うわけかい?」
「いや、そんなわけじゃありませんが」
 拙生は焼酎のお湯割りを注文のあった席へ運ぶためカウンターを出るのでありました。
「秀ちゃんは、今つきあっている彼女が居るの?」
 カウンターの中へ戻った拙生に島原さんが聞くのでありました。
「友達は何人か居ますが、それは彼女とか云えるものじゃあないですね」
「結構、秀ちゃんは男前なんだから、モテるんじゃないの?」
「いやあ、恐れ入ります」
 拙生は脂下がった笑いを島原さんに返すのでありました。
「秀ちゃんは実は、女に対する理想とか要求とかが高過ぎるんじゃあないかい?」
 小浜さんが云うのでありました。
「そんなことはないですよ。ただ、自分は学校を出ても就職はしていないし、貧乏だし、それをあんまり苦にしていると云うんでもなし、なににつけても面倒臭がりだし、無精だし、男前と云う以外、モテる要件を全く完備していないわけですよ」
「男前は完備しているわけだ」
 小浜さんがそう云って失笑するのでありました。
「桂小文枝が『稽古屋』と云う落語の中で、男のモテる条件を十ヶ条、列挙してますよ」
 拙生がそんな話を紹介するのでありました。
「ほう、モテる条件ねえ」
「ええ。第一の条件が見栄えだそうです。次に男気です。ええと・・・」
 拙生は噺を思い出しながら続けるのでありました。「一見栄、二男、三金、四芸、五精、六おぼこ、七科白、八力、九胆、十評判、だったかな」
「なになに、もう一度云ってくれるかい」
 小浜さんが大いに興味を示すのでありました。拙生は小浜さんの求めに応じて、何度かその言葉を繰り返すのでありました。
「してみるとですね」
 拙生は云います。「自分は貧乏だから三番目の<金>はないわけです。依って一番目の<見栄>も男前ではあるにしろ立派には作れない。優れて<男>気のある方じゃないし、女の子に喜ばれるような<芸>もないし、無精だから<精>もない。<おぼこ>詰まり可愛げもないし、頭の回転が悪いからグッとくる<科白>も云えない。多少<力>はあるけれど誇れる程でもない。<胆>が据わっている方じゃないし、近所で良い<評判>が立っているんでもない。要するに、全滅です」
「いやあ、いいことを聞いた」
 小浜さんが感心してその後黙るのは、屹度条件に自分がどれだけ当て嵌まるのか、早速検証しているためなのでありましょう。
(続)
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