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石の下の楽土には 42 [石の下の楽土には 2 創作]

「まあ、若い娘、とりわけ図々しくて無愛想な娘に、アタシの料理が判るわけはないんだけど、それでも島原さんの連れとなりゃあ、大いに歓待させて貰いますよ」
 小浜さんが云うのでありました。
「そんなに図々しいとか無愛想とかじゃないですよ、その娘は」
 島原さんが娘の肩を持つのでありました。
「そりゃあ、今までの島原さんの話を聞いていると、なんとなくそんなにいけ好かない娘と云う風には思わなくなりましたよ、アタシも。最初は初対面の人に花をくれとかぬかす娘は、どれだけ非常識な奴かって印象を持ちましたが、話しを聞いてみると、世間知らずと云うだけで、そんなにふざけやがった娘じゃあないと云うのは判りましたよ。しかしほら、若い娘一般とカカアは、アタシの天敵だから」
 小浜さんはそういう云いながら鬢の辺りを小指で掻くのでありました。
「まあ、折角のオヤジさんの申し出だから、一応は誘ってみましょうかな」
 島原さんもこの店に娘を食事に連れて来るのは妙案かと思ったようで、そう云って小浜さんの提案に少し乗り気になるのでありました。
「若くて可愛い娘となると、自分も興味がありますね」
 拙生は他の席の客が注文した焼酎のお湯割りを三杯作りながら云うのでありました。
「でも、墓地に出没する娘だぜ」
 小浜さんが態と陰鬱な声で拙生に云うのでありました。
「ディスコで踊りまくっている娘だとか、テニスだスキーたヨットだなんて、なんでそんなにと思うくらい遊びに忙しい女の子よりは、墓地に現れる娘なんと云う方が、自分の好みの領域に近い娘のような気がしますが」
「ああ、そうかねえ」
 小浜さんが納得したようなしないような口ぶりでそう返すのでありました。
「秀ちゃんは、どんな娘が好みなの?」
 島原さんが聞きます。
「そうですねえ・・・」
 拙生は高校時代につきあっていた同級生の事を思い浮かべるのでありました。その娘は心臓に重い持病を抱えていて、結局つきあって一年もしない内に他界してしまったのでありました。細身の、中高の顔に目は大きいのでありましたが鼻や口が小造りの、なんとなく華やかな顔立ちの娘でありました。仕草がなよやかで喋る口調も緩やかな感じでありましたが、それは病気のせいで以前から溌剌とした動きを制限されていたためでありました。しかしつきあってみると以外に大胆であったり、お茶目でもあったりして拙生は大いにその娘に夢中になったのでありました。俯くと長い睫が拙生の目を惹くのでありましたし、拙生はいつもその睫の動きにどきどきとしていたのでありました。
「なんだい、なんかいやに勿体ぶって黙るねえ」
 小浜さんが拙生の沈黙がほんの少し長くなったのをからかうのでありました。
「別に勿体ぶっているんじゃないですけど」
(続)
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