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石の下の楽土には 40 [石の下の楽土には 2 創作]

「まあ尤も、幾らその娘が島原さんに好意を持ったとしても、それに島原さんが光り輝いて見えたとしても、島原さんを<男>として、好意を持ったり輝かしく見たりしているわけではないと云うのは、蛇足ながら一言しておきますが」
 小浜さんがそう云って小さく島原さんに頭を下げるのでありました。
「そりゃそうだ。オヤジさんに云われるまでもなく、二十歳そこそこの娘がこんな爺を<男>として見ているわけがない」
 島原さんがそう云って目の前の先程小浜さんが酒を満たした猪口を手に取って、少し大袈裟過ぎる程の大笑をするのは、ひょっとしたら自分が<男>であることから、もうとうの昔に引退してしまった寂しさのような情けなさのような感情を、大笑の裏側にぎごちなく隠蔽しようとする、意図せざる意図のためだったかも知れません。それは小浜さんも感じたようで、島原さんに限らず、男は性として<男>であることの胡散臭さを、引退の後も相変わらず発散し続けて居たいものなんだよなあと、後に拙生にしみじみと語るのでありました。
 ・・・・・・
 確かに、島原さんは娘の表情が最初に逢った時に比べて、少しは和んできたようにも感じるのでありました。島原さんと話をする娘は、薄くではありますが笑ったり、おどけた様子を表現したりするのでありました。それはつまり、島原さん自身をも大いに和ませるのでありました。
 或る日のこと、娘は墓地にやって来た島原さんに、持っていた紙袋からビニールパックされた卵と野菜のサンドイッチを取り出して、それを差し出すのでありました。
「お爺ちゃんもう、お昼ご飯食べた?」
「いいや、未だだけど」
「良かったら、これ、食べない?」
 娘は島原さんの顔を見て笑うのでありました。「お昼と云うには、少し遅いけどさ」
「へえ、それは有難いね」
 島原さんが受け取ると、娘は今度は紙袋から缶コーヒーを一本取り出して、それも差し出すのでありました。
「一緒に食べようと思って買ってきたの」
 娘はそう云って自分の分のサンドイッチを島原さんに示すのでありました。
「じゃあ、早速」
 島原さんは缶コーヒーを香炉の傍に置いてサンドイッチのパックを開けるのでありました。それを見て娘も自分のパックを開きます。
「本当はなにかお弁当でも作ってくればよかったんだけど、あたしさ、料理が全然出来ないから」
 娘は自分の缶コーヒーのプルリングを開けて、一口飲むのでありました。大体島原さんは何時も遅い朝食を昼飯と兼用で食べているものだから、未だそんなに空腹は感じていなかったのでありましたが、折角の娘の厚意を断る積りは全くないのでありました。
(続)
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