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石の下の楽土には 38 [石の下の楽土には 2 創作]

「本当?」
 娘が島原さんに聞くのでありました。
「そう。だから君も間違いなく、ずうっと先の話だけど、楽土には行ける。まあ、そう云う世界が墓石の下に本当に在れば、と云うことだけど」
「じゃああたしも絶対、石の下の楽土には、行くことが出来るのね?」
「勿論そうだ」
「お兄ちゃんとお父さんとお母さんが居る楽土に、あたしも行けるのね?」
「大丈夫だよ」
 島原さんは受けあうのでありましたが、墓の下に在る楽土と云う話を、実は島原さん自身は未だ受け入れてはいないのでありました。しかしそんなことは噯気にも出さないで続けるのでありました。「考えてもみてごらん、君の兄さんは四人の葬儀に立ちあった後で亡くなったかい?」
「そう云われてみれば、・・・そうよね。今まで考えもしなかったけど」
「それでも叔父さんは、お兄さんが待っている楽土にお父さんが行くんだって云ったんだろう? だったらお兄さんはもう既に楽土に居るってことじゃないか。四人とか五人とかの葬儀に実際に立ちあわなかったお兄さんが楽土に居ることを、そうしなければ楽土には行けないなんて云った叔父さんが既に、認めていることになる」
「だったら、四人以上の葬式に立ちあった者しか、楽土には行けないなんて、云わなければ良いのに。誰でも楽土にいけるんだって、そう云ってくれれば良いのに」
「まあ、言外に、孝を尽くして、身を大事にして老少の順を守れと、諭すためなのかも知れないね、そう云う風な云い方になるのは、屹度」
「それにしても、まわりくどいじゃない」
「そりゃあそうだ。でも、そう云いならわされてきたんだから、ここで文句を云っても仕方がない」
「でも、あたしも家族が居る楽土に行けるんだって判ったら、なんだか安心した」
 娘はそう云って島原さんの顔を見つめるのでありました。「お爺ちゃんさ、本当にあたしも、楽土に行けるのよね?」
「うん、大丈夫だよ。・・・相当、先の話だけどね」
 島原さんは受けあうのでありましたが、地下に楽土が在ると云うことを未だ本気で信じていない自分が、そんなことを保証するのは一種の詐欺ではないだろうかと思うのでありました。島原さんは大きな目を自分の顔に一直線に向けている娘の顔から視線を逸らして、俯いて秘かにたじろいでいるのでありました。
 ・・・・・・
「へえ、楽土ねえ」
 小浜さんが盛りつけ終わった刺身の見栄えを点検をしながら云うのでありました。「極楽浄土ってことですかね、要するにそれは。しかしアタシはあんまりピンとこないですなあ。どうせなら、今生に居る内に出来るだけ良い目を見たいと云うクチでしてね、アタシは」
(続)
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