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石の下の楽土には 32 [石の下の楽土には 2 創作]

「どうしてそんなことが判るの?」
「君の話ぶりを見ていたら、ちゃんと判るよ」
 自分の話しぶりのどこを見ればそんなことが判るのか、娘は納得がいかないと云った顔をして島原さんを見るのでありました。確かに島原さんには娘が優しいのかそうでないのかなど、今の時点で全く判るはずがないのでありました。判らない儘なんとなくそう云った言葉を娘に向けて仕舞うのは、娘の言辞が娘の本来の心根から出たものではなくて、一時の気の迷いがそう云わせているだけなのだと、仄かながら本人に指摘しようとしてでありましたし、優しい心根であろう本来の姿に、全く似つかわしくない思いに振り回されているように見える娘が、島原さんには少々可哀想に思えたからでありました。
 しかしこの娘が優しい心根の娘であるのかどうか、未だ判らないではないかと島原さんはもう一度考えるのでありました。自分はそんなに勘の良い方でもないし、その自分の勘と云うものに大した自信もないのでありました。それに一目でその人の本心を見抜くほどの眼力も備えてはいないのであります。ほんの少し話したくらいで娘が本当に優しいのかそうでないのか、そんなものが自分に判るはずもないのであります。でも、この娘がとても可愛いらしい顔をしていると云うことだけは、紛れもない事実であると島原さんは思うのでありました。
「なんとなく、勇気づけてくれているんだと云うことは、判るわ」
 娘が云うのでありました。「でも、勇気づけてもらうために、あたしはこんな話をしたんじゃないの。あたしがこんな話をしたのは、・・・」
 娘はそこで次の言葉を暫く失うのでありました。「本当はただ、お花とお線香を何時も有難うって、そう云いたいだけだったのに。・・・」
「そんなもの、お礼を云われる程大したことじゃないよ」
 島原さんが云うのでありました。なんとなく今までの話がここで終息しそうな気がして、島原さんは内心ほっとするのでありました。
「自分でお花とお線香を買ってこようって、いつも思うんだけど」
 娘が俯くのでありました。
「毎日花を持って来るんじゃあ、大変だしね」
「せめて一週間に一回持ってくれば、それでお爺ちゃんに花を貰わなくても済むんだけど。それにあたしはお花屋さんで働いているって云うのに」
「いやあ、高いからねえ花も。いくら花屋で働いているとは云っても、タダで貰って来るわけもいかないだろうしね」
「お線香も、ウチのお花屋さんに置いてあるのに」
「それもタダとはいかないしね。アルバイトだからそんなに貰っていないんだろう、給料?」
 島原さんのその問いに娘は俯いた儘ほんの少し頭を縦に動かすのでありました。
「もっとみっちり働けば、週に一回花を買えるくらいのお給料は貰えるんだけど」
「いいよいいよ、二輪の花と線香の十本くらい、なんと云うこともないんだから、私は」
 島原さんがそう云うと娘は顔を上げるのでありました。
(続)
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