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石の下の楽土には 27 [石の下の楽土には 1 創作]

「そうね、そう云われれば、そうよね」
 娘は島原さんに一つ頷いて見せるのでありました。その後お互いに自分の前の墓石に目を向けた儘で、動きも言葉も発生しない時間が二人の間に暫く横たわるのでありました。
「そろそろ、あたし店に戻らないと」
 娘が云うのでありました。それは今日の邂逅のお開きを宣する言葉であると島原さんは思うのでありました。島原さんは少し寂しい気がするのでありました。
「家に帰るんじゃなくて、未だこれから仕事なの?」
 島原さんはなんとなく別れが名残り惜しいのでありましたが、またその内ここで逢えるだろうと思い直すのでありました。
「そう、今日は午前中働いて、それからまた夕方店に行って後片づけを手伝うの」
「ふうん。働く時間が決まってないんだ?」
「うん。朝から夕方までの時もあるし、午前中だけっていう日もあるし、午前中に働いて、午後は帰ってその後また夕方、店が閉まる頃に出ると云うのもあるの」
「なんか落ち着かない仕事時間だね」
「アルバイトが二人だから、時間のやり繰りから、そう云う風になっちゃうの」
「おちおち遊びにも行けないね、そんな感じだと」
「どうせあたしは、どこにも遊びになんか行かないから、別にいいの。それに、だからって云って、目がまわる程忙しいとか、きつい仕事ってわけでもないし」
 島原さんは自分も一緒に墓地を出ようかと思うのでありましたが、なんとなくこの墓地以外の場所に娘と自分が一緒に在ることは、不自然なことのように思えるのでありました。
「じゃあ、私はもう少し残るから」
 島原さんが云うのでありました。
「うん。お花とお線香、どうも有難う」
「いやいや、別にお礼を云われる程のことじゃないから」
「あたしのこと、図々しい奴だって思ったでしょう?」
 娘はそう云って自分自身に顔を顰めて見せるような表情をつくるのでありました。島原さんは娘の言葉とその顔を見て、なんとなく微笑むのでありました。
「いや別に。それより今日は、話が出来て楽しかったよ」
「さよなら」
 娘はそう云って頭を浅く下げると島原さんに背を向けるのでありました。
 ・・・・・・
 島原さんが猪口を口に運びながら小浜さんに云うのでありました。
「へえ、オヤジさんは二人のお子さんの父親と云うわけなんですか」
「そんな具合なんですよ。この二人がこれまた学校の成績が悪いときたもんだから、実に困ったもんです。屹度女房の方に似たんです」
 小浜さんが煮魚の鍋の蓋を細めに開けて中を覗きながら云うのでありましたが、これは島原さんに出す鰤大根とは別のものなのでありました。
(続)
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