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石の下の楽土には 25 [石の下の楽土には 1 創作]

 小浜さんは駐車場の自分の車に身を屈めながら乗りこむのでありました。
「じゃあ、明後日ね」
 小浜さんが拙生に手を挙げながら云うのでありました。
「はい。釣果を期待しています」
 拙生は別れの一礼をするのでありました。
「うん、量が釣れたら秀ちゃんに持ってくるよ」
「店でも出せばいいじゃないですか」
「それ程立派なものは釣れないよ」
 小浜さんは車のエンジンをかけるのでありました。
「奥さんによろしく」
 拙生がそう云って手を挙げると、照れたような困惑したような笑いを浮かべながら小浜さんは車を発進させるのでありました。
 ・・・・・・
 島原さんが三日ぶりに墓地へ来てみると、あの娘が墓地に備えつけの箒で島原さんの奥さんの墓の前を掃いているのでありました。そのしをらしさは、花と線香を分けて貰ったお礼の積りであろうと島原さんは思うのでありました。
「ああ、済まないねえ、こっちの墓まで掃除してもらて」
 島原さんは娘に声をかけるのでありました。娘は身を屈めた姿勢の儘、島原さんを見てはにかむように笑うのでありました。島原さんは別に要求されたわけではないのでありましたが、持ってきた小ぶりの花束の中から白い菊の花を二輪取って娘に渡そうとするのでありました。
「どうも有難う」
 娘はそれを素直に受け取って島原さんに一礼してから、また箒を動かすのでありました。
「ああ、こっちの方はもういいよ」
「でも、もう少しで終わるから」
 娘はそう云いながら集めた土埃や枯葉を塵取りに取って、小路脇に置いてある大きな金網の塵入れのところまで歩くとそれを処分するのでありました。
「お蔭で、墓石の周りが随分綺麗になったように見えるよ」
 島原さんが云うと娘はその言葉が嬉しかったのか、先程と同じにはにかむような笑いを浮かべるのでありました。
 娘は島原さんから貰った二輪の菊の花を、自分の家の墓の両脇の花立てに一輪ずつ差すのでありました。一輪ずつの花を飾られた墓は、それはそれなりに可憐に見えるのではありましたが、矢張りどこか物足りない風情が漂っているのでありました。島原さんは二つ持ってきた花束の内の一つを全部、娘に渡せばよかったかなとほんの少し悔やむのでありました。しかしそうしようとしても、娘はこの前と同じように二輪以上の花を貰うことを拒むかも知れないのでありました。今度来るときは花束を四つ買って来ようと島原さんは考えるのでありましたが、それを娘が喜ぶかどうかわ判らないのでありました。
(続)
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