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石の下の楽土には 23 [石の下の楽土には 1 創作]

「どなたのお墓なの?」
 老人が聞くのでありました。彼女はもう一度老人を見るのでありましたが、その老人の問いに応えるのを躊躇するのでありました。父と母と兄であるとちゃんと話しても別に何も構わないのでありましたが、そうするとひょっとしたら好奇心から、老人が質問を重ねてくるように思えたのでありました。花と線香を貰った手前、彼女は老人の質問にいちいち応えなければならないであろうし、それは如何にも煩わしいのでありました。
「ああ、余計な事を聞いてご免ね」
 老人はそう云いながら立ち上がって、手桶の水を柄杓で掬うのでありました。その後それを持って彼女の墓の前まで来ると、二つの花立てに均等に水を注ぎ入れてくれるのでありました。
「こうしておかないと、花が可哀そうだからね」
 彼女は老人が近づいてくるのを見て、思わず立ち上がって老人の接近を避けるように墓の前から少し離れたのでありました。そうした後に彼女は、それはひょっとして老人に対して失礼な仕草だったかも知れないと思うのでありました。老人は別に意に介さないように、或いは意に介さない振りをして、空になった柄杓を持ったまま黙って墓石を眺めるのでありました。
「どうも有難う、お花とお線香・・・」
 彼女はそう云って老人に頭を下げるのでありました。老人は彼女に笑いかけて一つ頷くのでありました。彼女はその後、逃れるように墓石の前から去るのでありました。親切な老人に対して、ぎごちないどころか、どう考えてみても失礼にしかふる舞えなかった申しわけなさから、彼女は一刻も早く老人の傍を離れたいと思うのでありました。
 ・・・・・・
 小浜さんが店のシャッターを下ろして鍵をかけるのを、拙生は傍に立って見ているのでありました。
「さて明日は、久しぶりの釣りだ」
 小浜さんが鍵をポケットに仕舞いながら弾んだ声を上げるのでありました。「秀ちゃんは明日なにか予定でもあるの?」
「いや、別に何もありません」
「よかったら明日つきあう?」
 小浜さんは明日の店の休日に道志川の方へ釣りに行く予定なのでありまたが、それに拙生を誘ってくれるのでありました。
「どうしようかな」
 拙生は少し考えるのでありました。「いやでも、ずぶの素人が一緒だと、小浜さんが楽しめないだろうから、よしておきますよ。ちょっと就職活動もしないと拙いですから」
「どこかの会社に、面接かなにかに行く予定でもあるの?」
「いやそうじゃないんですけど」
 就職活動と云っても、拙生のは新聞の求人欄を見ると云う程度のものなのであります。
(続)
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