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枯葉の髪飾りCCⅩⅩⅩⅦ [枯葉の髪飾り 8 創作]

 拙生はその足で吉岡佳世の眠る寺へと向かうのでありました。その日の午前中、彼女の家に行く前に一度立ち寄ったのではありましたが、彼女の壇に饗応と形見分けのことを報告しようと思い立ったからでありました。
 万年筆を壇の写真の前に置いても、彼女との交感の始まりを予感させるどのような気配も見せないで、それは単なる万年筆としてそこへ横たわっているだけでありました。拙生は貰って来た紙袋から写真立てを取り出すのでありました。それから架台のついた裏の板を外して壇の中の写真をそこに入れるのでありました。架台を出すと上手く壇の中に納まらないように思えて、台を折りたたんだ儘万年筆の後ろに立て懸けるのでありました。
<オイがお前に買うて来た写真立てば貰うてきたとばってん、またオイがそれば貰うて云うともなんか妙な気のするけん、こがんしてお前ば入れて、ここに置いとくけんね>
 拙生はそう、写真立てに入った彼女に口を開くことなく語りかけるのでありました。実は秘かに、彼女の写真を写真立てに収納することで、なにかしらの気配の変化を期待していたのでありましたが、なにも起こらないのでありました。拙生は今度は犬のぬいぐるみを取り出すのでありました。
<このぬいぐるみは、あん時に三ヶ町で買いそびれた、あの仔犬の代わりに買ってきたとやろう、オイの身代わりに?>
 拙生はそう云って笑って見せるのでありましたが、壇の中の空気はやはり重く泥んだ儘僅かも動かないのでありました。
<これは貰うていくけんね。東京のオイの部屋に、今度はお前の身代わりとして飾っとくばい。それから・・・>
 拙生は赤い蓋と紐の水筒と三冊のノートも取り出すのでありました。
<水筒は、なんかお前の分身のような気のしたし、オイとお前との繋がりの強さば証明しとるごたる気もするもんけん、強請って貰うてきた。それからおまじないノートも、前にお前が云うとった通り、ちゃんとオイの手元に来ることになったばい。このノートは後でじっくり見させて貰うけんね。どうや、恥ずかしかや? 尤も、去年の夏に公園で始めてお前と二人きりで話した時、いいや、その次二回目にお前と二人で逢うた時やったか、お前に頼まれて、オイの倫理社会とか英語とかのノートば、お前の夏休み中に受けるて云う期末試験のために貸したやろう。あの時のオイのノートも、汚か字で要領悪く適当に書いとったとやけど、そればお前に見られるとは、本当はオイは恥ずかしかったとばい、如何にもオイの頭の悪さば見られるごたる気のして。云うてみれば、今度はその仕返しばい>
 拙生はそう云って歯を剥いて笑って見せるのでありましたが、壇の中の彼女の微笑は、相変わらず重い空気の中に溶けこんで少しの揺らぎも見せてはくれないのでありました。
<なあんか、少しも反応せんようになって仕舞うたね、お前は>
 拙生はため息をつくのでありました。
<もう遂に、人間としての感情とかが、すっかり消えて仕舞うたて云うわけか、前にお前が云うとったように?>
 拙生は力ない仕草で水筒とノートを紙袋の中に仕舞うのでありました。
(続)
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