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枯葉の髪飾りCCⅩⅩⅩⅢ [枯葉の髪飾り 8 創作]

「井渕君、ご免ね、なんか、佳世を井渕君から引き離すようで」
 お父さんが云いながら拙生に軽く頭を下げるのでありました。「井渕君があれ以来ずうっと、納骨堂に花を供えてくれているのは、もう佳世の親としたら有難くて、本当に涙が出るくらいなんだけど、半面、井渕君のこれからを考えると、申しわけないと云うのか、申しわけなさ過ぎると云うのか、そんな気もしていてね。なんか偉そうに聞こえるとか、勝手な理由を云っているとか思われると不本意なんだけど、ここら辺でちょっと、状況を変えることは、私もそうだけど、井渕君のためにも必要な気もするんだよ」
「オイ、いや僕のことで心配ばかけとったり、重荷に感じさっせて仕舞うとるてしたら、逆に、ちょっと申しわけなかとです、こっちの方が。そがん風には考えもせんやったけど」
 拙生はそう云って頭を下げるのでありましたが、拙生の気持ちの中で急に噴き出してきた面目ないような気分が、下げた拙生の頭を重苦しく押さえつけるのでありました。拙生が好きで毎日吉岡佳世の納骨壇に参るその行為が、思わぬところで彼女の家族に余計な負担をかけていたようなのでありました。全くの拙生の、至らなさでありました。
「いや、花を供えに来てくれることを、どうこう云っているんじゃないんだ。井渕君には感謝以外はないんだからね。今の私の言葉を変な風にとらないでね」
「はい、判っとります。そがんへそ曲がりにはとっとらんです」
「ほら、面倒臭かことば喋っとらんで、刺身ばもっと食べんね。たっぷり買うて来たとやから、余っても仕方なかとやけんね」
 お母さんが拙生にともお父さんにともつかず云うのでありました。それから拙生の醤油の小皿を覗いて醤油を注ぎ足してくれるのでありました。
「そう云えば佳世も、あんまい刺身は好いとらんやったね」
 お兄さんが話頭を変えるように云うのでありました。「甘党のところは、お袋さんに似とったとばいね、屹度」
「そう云えば、岡山から桃が送って来たら、母さんと佳世とで早々に食って仕舞って、私がありつけるのは残った一個か二個だったっけ」
 お父さんがそう云って笑うのでありました。
「そりゃあ、岡山の桃は美味しかけんね。お父さんは小さか時から散々食べてきたやろうけん、もう飽きとるやろうて思うてさ」
 お母さんがそう返すのでありました。
「そんなことがあるもんか。実際岡山の地元の人は普段は、そんなに桃なんか食べないんだから」
「そりゃそうばい。折角の売りものとに、自分で食べとったら仕方なか」
 お兄さんがお父さんに同調するのでありました。「お袋さんと佳世のお蔭で、桃の賞味に与れんやったとは、オイも同じけんね」
「そがんことのあるもんね。ちゃあんとあんた達に、一番に食べさせよったたい」
 お母さんが二人の共同戦線に果敢に抗うのでありました。「そりゃあちょっと味見のために、最初の一個はあたしが食べたかも知れんけどさ」
(続)
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