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枯葉の髪飾りCCⅩⅨ [枯葉の髪飾り 8 創作]

<井渕君、帰りの列車の切符の手配はついたと?>
 写真の吉岡佳世が聞くのでありました。
<うん、十月一日のさくら号の切符のとれた>
<そうしたら、あっちに着くとは十月二日になるね。十月一日からもう、大学の後期の授業は始まるとやないと?>
<まあ、そうやけど、別に一日二日、遅れて行っても特に問題なかやろう>
<ふうん、そう>
 写真の吉岡佳世が少し顎を上に向けるのでありました。<ところで、大学は楽しか?>
<そうね、そがん楽しかて云う感じじゃなかばってんがね。第一もうお前が来ることはなくなったとやけんが、オイが東京に居るとも、なんか意味のなかごたる気のしとる>
<そがんことないさ。あたしが行く行かんていうことと、井渕君が大学生になったことは、全く別の次元の話やろう>
<いやあ、オイはお前と一緒に東京で大学生活ば送ることが、本当は一番大事な目的やったとばい。オイはただ、一足先に東京に行っただけで>
 拙生がそう云うと写真の吉岡佳世が少し俯くのでありました。
<・・・ご免ね、井渕君>
<ああ、いや別に、お前に恨みごとば云いよるわけやなかけん、そがん謝らんでもよかとぞ。謝られたら、オイの方が困るばい。お前が東京に行きたかったて云うことは、ちゃんとオイも判っとるけんね。行かれんようになったのは、お前のせいじゃなくて、もっと全然別の、なんか避けられんやった都合のせいけんが>
 拙生はうろたえてそう云いながら首を横にふるのでありました。
<井渕君さ、変な気ば起こして、大学ば辞めたりしたらダメよ。もし辞めたりしたら、あたしのあのおまじないノートが、結局無駄やったて云うことになるけん>
<ああ、そうね。そうなるたいね。それは確かに申しわけなか話ばい>
<あたし本当に一生懸命、気持ちばこめて、あのノートば書いたとよ。まあ、実際はおまじない以上じゃなかとやけど。でも、あたしの気持ちはあのノートに、確かに籠っとると。あたしが生きとった証拠みたいなものが、あのノートにまだちゃんと残っとるとよ>
<成程ね。確かに、そうね>
 拙生は頷いて見せるのでありました。<あのノートは、オイが貰ってよかやろうか?>
<うん、ちょっと見られるとは恥ずかしかけど、ノートは井渕君にあげる>
<そうや、そんなら、明日にでももう一度お前の家に寄って、貰ってこようかね>
<そがんことせんでも、ちょっと待てば、必ずあのノートは井渕君の手元に行くことになってるとよ。実はそれまで待っていてくれた方が、あたしとしてはもう少し、恥ずかしさの先延ばしになるわけやから、なんとなく嬉しかとやけど・・・>
<なんや、それは往生際の悪かて云うもんばい>
 拙生はそう云ったすぐ後で、今更彼女に「往生際」はないだろうと考えて、弾みで妙なことを口走ったものだと自分でも可笑しくなるのでありました。
(続)
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