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枯葉の髪飾りCCⅩⅥ [枯葉の髪飾り 8 創作]

「まあ、そいでも結局」
 彼女のお母さんは暫く黙った後にまた口を開くのでありました。「やっぱいあの子の衰弱は、止められんやったけど・・・」
 拙生は目を固く閉じて呼気を止めるのでありましたが、それは涙を堪えるためでありました。彼女のお母さんは両の掌で顔を覆って、時々引き攣るような嗚咽の声を指の間から漏らすのでありました。その儘少し長い時間、会話が途切れるのでありました。
「ご免ね、取り乱してしもうて」
 重苦しい数分間が過ぎて、どことなく未だ引き攣るような言葉つきの儘彼女のお母さんはそう云って、掌で涙を何度も拭ってから赤くなった目で拙生を見るのでありました。拙生は返す言葉が見つからなくて、弱々しく笑いかけながら何度か首を横にふるのでありました。堪えようとしたのでありましたが拙生の目からも涙が零れてしまったので、拙生の目も屹度赤く充血していたことでありましょう。拙生と彼女のお母さんはなんとなく照れて気まずそうに、お互いに目を逸らすのでありました。
「ばってんね、今考えると井渕君が最後の一年あの子の傍に居てくれて、本当に良かったて、あたしは思うとるとよ」
 彼女のお母さんはコップの麦茶を一口飲んでから云うのでありました。「あの子もこの世に居る間に、やっと女の子らしか感情とかも、ちゃんと経験させて貰うたしね。せめてそれだけでも、あの子が生まれてきた甲斐のあったて思えるもん。あの子も今頃、向こうで屹度そがん思いよるやろう」
「オイ、いや僕の方こそ、楽しか一年やったて思うとるとです。今は未だ残念でならんし、悔しゅうて堪らんとですけど、そいでも佳世さんのお蔭で、なんか気持ちの高揚した一年ば過ごさせて貰うたて思うとです」
 確かに受験勉強に明け暮れるだけの一年にならなかったのは、云うまでもなく吉岡佳世の存在があったからでありました。本当ならやりたいこともやれずに気が塞ぎこんで、なにかにつけ苛々としながら過ごすことになったであろう拙生のこの一年を、彼女が、今までに経験したこともない華やかな充実感に満ちた一年にしてくれたのでありました。
「あんた達の二年後とか三年後とか、もっと先も、そりゃあ、実際はどがんなるかは判らんやったやろうけど、こっそり楽しみにしながら、あたしは見てみたかったとばってんね」
 彼女のお母さんはそう云って力なく微笑むのでありました。
「お父さんは、どがんしとらすですか?」
 拙生はファンタグレープを一口飲んで聞くのでありました。
「うん、未だすっかりしょげ返っとらすけど、その内段々元気ば取り戻さすやろうて思うよ。元々が、そがん深刻にならん人やけん」
「最愛の娘やったとけんが、無理もなかやろうけど」
「そうね、時々佳世の部屋に入りこんで、暫く出てこらっさんこともあるけど・・・」
 彼女のお母さんはそう云った後に声の調子を変えるのでありました。「ああそう云えば、佳世の部屋は未だその儘にしてあるとけど、良かったら井渕君、もう一度見ていくね?」
(続)
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